はてなキーワード: ペプシネックスとは
小さい頃の私は人見知りで引っ込み思案だった。しかしひとたび自分の居場所を見つけると、見違えるように活発に振る舞った。幼稚園は私にとってそんな場所のひとつで、時には度が過ぎて、友人のクレヨンを隠したり、好きな女の子をいじめたりもした。
でも私がそんな振る舞いをするたびに、幼稚園の女性教諭は「こぉーらっ!そういうことしちゃだめでしょ」と頬を膨らませながら、私の頭を軽くコツンとして諭すのだった。甘美なひびきを伴ったその言葉は、不思議と私の中に染みこんでいき、怒られているにも関わらず、私はほのかな悦びを覚えていた。だから女性教諭の意図とは裏腹に、私は彼女の「こぉーらっ!」を聞くために、いたずらばかりをして幼年の日々を過ごしたのである。
そして時は流れて現在。私の目の前には、制服を着崩し、髪の毛を着色し、マルボロを吸いながら、気だるそうに私を睨む数人の男たちがいる。つまるところ彼らは不良であった。しかも半端な不良である。本当の不良であれば学校などには通わず、街にたむろしては誰彼構わずナイフみたいに尖っているはずだが、中途半端な彼らは親だとか世間体とかを気にして、とりあえず学校に通いながら、学校という狭い世界で悪を気取っているのである。笑えてくるではないか。
「オイ!てめえ何にやにやしてんだよ」「ふざけてんのか」「何?死にてえの」 彼らの罵声に私の体が萎縮する。どうして私はこんな場所に立っているのだろう。私が何をしたと言うのだろうか。そんなことを考えながら、私は彼らの短絡的な怒りが通り過ぎるのをただひたすら待っていた。言うなればこれは台風のようなものなのだ。「じゃあ、罰としてジュースおごりな」 そう言うや否や、彼らは私の意思など無視して、思い思いにジュースの名前を列挙していく。私が注文を聞き直すと、返ってきた言葉はいつもの「じゃあ、土下座ね」だった。私はコンクリートの地面に額をすり付けながら、もう1度彼らに注文を尋ねた。
「ファンタオレンジ」「CCレモン」「ペプシネックス」「午後ティーレモン」 途中までは順調だった。しかし私は突然に動揺してしまったのだ。「す、すいませんもう1回お願いします」 鋭い眼光が一斉に向けられる。私はたまらず目を逸らすと、何度も何度も頭を下げた。「しゃあねえな、コーラだよコーラ」 私は体の芯が熱くなるのを感じていた。なぜか呼吸まで乱れてくる。私は勇気を振り絞る。「もう1度だけ」
彼らが一斉に立ち上がる。しかしコーラを注文した男は手で全員を制した。彼はこの中のリーダー格なのだ。彼は私にゆっくりと歩み寄ってくると、思い切り顔を近づけて「よく聞けよ、俺が飲みたいのはコーラだ。こぉーらっ!」と言って、私の頭をノックするように小突いた。私の両足はがくがくと震え、その場に立っているのがやっとだった。もちろんこれは恐怖によるものではない。濃密な快楽によるものだった。
そして私の異変に気づいた誰かが声を発する。「おい!こいつ勃起してるぜ」 私の学生服のズボンは不自然なほどに盛り上がっていた。彼らは口々に何かを叫んでいたがもう私の耳には入っていなかった。リーダー格の男が言った。「これはどういうことなんだ?」 至極もっともな疑問であるが私は答えることができなかった。私は前屈みなりながら駆け出していた。この場をすぐにでも離れたかった私は、注文を受けたジュースを買いに行こうとしたのだ。
しかし背後から声が飛ぶ。「ジュースはもういい」 リーダー格の男に言われては私も戻るしかない。股間を手で隠しながら私は再び彼らの前に立った。するとリーダー格の男がおもむろに口を開いた。「ソーセージが食いたい」 そんなものあるわけがない。私が何かを言おうとすると、彼は私の股間を指さしてこう言ったのである。「そこにあるじゃないか、張り裂けんばかりのシャウエッセンが」 それを受けて取り巻きの男たちも「シャウエッセンが」と声を合わせる。観念した私はおもむろに自らのシャウエッセンをつまみ出すと、日本ハムのサイトから引用した商品の特長とおいしさの秘密を告げた。
「旨味とコクたっぷりのあらびきポーク肉を天然の羊腸に詰めた、本格的あらびきウインナーです。ジューシーでパリッとしたおいしさが特長です。保存料は使用しておりませんので、開封後はお早めにお召し上がりください。また、パリッとした歯ごたえは、皮に秘密があります。その歯ごたえについては、科学的な数値データを用いた管理基準を定めている為、いつ食べてもパリッとした食感がお楽しみ頂けるのです」