「数学は理解していれば覚えなくていい」みたいな言説を声高に主張する人は、自分がどのように数学を習得してきたのかを無視して「自分はその場で公式を導出できる賢い人間です」ということをアピールしたいだけだと思う。
数学(ないし様々な抽象的概念)を理解することの本質は、雑多な公式や解法や証明のパターンについての記憶を高密度な情報に圧縮することだ。
人が数学を勉強するとき、まずは必要な定義や公式を「暗記」してそれを使って様々な問題を解いたり証明したりしていく。そうやっていくうちに、脳が情報の間の有機的な繋がりを学習し、「理解」という高密度に圧縮された情報を獲得する。
だから、圧縮前のデータを脳に入れる「暗記」の部分は「理解」に必須のステップだ。一度「理解」に辿り着いたら「暗記」した内容の多くは不要になるかもしれないが、それは「暗記」というプロセスそのものが不要ということとは本質的に異なる。
実際、人類がまだ「理解」に辿り着いていない事象を研究している数学者たちは、教科書や論文に出てきた数式とか証明のパターンとかをめちゃくちゃ記憶している。そういうのが脳内にあるから、「このパターンはXを証明するときの流れに似ているから、同じように証明できるな」とか「この式と似たやつはYの導出の途中でも出てきたし、深い繋がりがあるのかもしれないな」とか考えられるようになり、そういうことを繰り返すことで人類の数学への理解は一歩一歩進んできたわけだ。
この辺を深く考えずに「数学に暗記は不要」と言っているのだとしたら、少し考えが浅いのではないかと思う。
ということをこれを眺めていて思った
覚えるべき公式と覚えなくていい公式があって「公式は覚えなくていい」なんて言ってるやついないだろ 「積和公式は加法定理から導出すればいいから覚えなくていい」というのは暗に...