2022-10-25

後藤!どこ行った??

「あれ?後藤いなくね?」吉田が呟いた。

「本当だ、いないじゃん」ミカが続く。

「え、マジでいないんだけど」本田半笑いで言う。

「あ、いないですね」吉田の隣の席の奴が囁いた。

国語教師山岸は授業を中断し、後藤が座っているはずの席を見つめる「おかしいねぇ、どこ行ったんだろう」

山岸久、58歳、長い教師生活で生徒が忽然と姿を消したのは、当然初めてであった。後藤の席は真ん中付近、黒板に板書をしている間に教室から出たのであれば、他の生徒が見ているはず。「誰か後藤がどこに行ったか知らないか??」あたりは騒然とし始めた、どうやら誰も見ていないらしい。束の間、教室後方の扉が開いた、そこには鬼のような形相の後藤が立っている。「717と言え!!」学校中に聞こえるような声で後藤が叫ぶ、困惑しきっている山岸に詰め寄りながら「717と言え!!」何度も叫ぶ、山岸は何が起きているか全く理解できない、もはや泣きそうになりながら呟く「717、、」すると教室中の生徒が一斉に立ち上がる、山岸は夢か現実区別がつかない。学級委員吉田が声を張り上げた「山岸ティーチャー、7月17日お誕生日おめでとう〜」全員が隠し持っていたクラッカーを鳴らす。「パンっ」「パンっ」

山岸は35年間の教師生活を振り返っていた。色々なことがあったけれど、生徒たちは今、僕の誕生日を祝ってくれている。それでいいじゃないか誕生日は11月7日だけど、それでいいじゃないか山岸の頬に一粒の涙が伝う、「みんなありがとう」そう言おうと思った瞬間、目の前の本田が起立もせずクラッカーも鳴らさなかったことに気付いた。刹那山岸は思いっき本田の頬を引っ叩いていた、教室が静まり返る。

誕生日を間違えられたこと、ふざけた名前呼び方、授業妨害、脱走したことタメ口命令したこと、隠し事をしたこと、実は全て許せなかった。それを飲み込もうと思った矢先、起立もしていない本田が目に入った。手は勝手に動いていた、全部我慢していた、やっと気づいた。そこから山岸教室のすべての生徒にビンタをした。100%クビになる、覚悟の上だった。

困惑と悲しみと怒りが飽和する教室山岸は手の感触を確かめながら言う

「よし全員いるな」

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