最高に頭が混乱し、最低のグッドトリップをした経験を、忠実に、正確に、有意に脚色を加えて書き残す。実に珍しいことだと感じたので。
12月9日午後12時35分、就寝。男は一晩中寝ていなかったらしい。漫画を読み、充足感と不足感のままに乱暴に寝た。夢は見なかったそうだ。
12月9日午後6時18分、起床。外は暗い。男は電気を点け、あまりの明るさに愕然とする。どうせやることもないし、このままもう一度寝てしまおうか、とも考えたが、蛍光灯とブルーライトにやられた目と脳は閉じることを拒んでいた。
男はなにも考えていなかった。なにも考えられなかった。夢と現実の狭間に迷い込んだかのようだった。外の暗さと部屋の明るさに、矛盾した鬱憤をかかえながら、ただ時間を過ごしていた。とりとめもない文章を連ね、他人に送りつけたりしていた。46億の人々の生活を消費し続けたりしていた。孤立していた。
12月9日午後7時24分、男は世界が一つではないと気づいた。その瞬間、目に映る文章、天井のライト、部屋の景観、今までのすべてが、文章となって脳になだれ込んだ。あまりにも煩かった。慄いた。これまでの自分にあった全てを悔い、取り消そうとした。しかし気づいている男は、そんなことができないことにも気づいているのだ。どうしようもなく時間は早く進む。不可解な理解から逃げ出したかった男は、もう一度布団にくるまった。
12月9日午後7時48分、逃げ出した男は、なにかに縋った。とにかく狭間に帰るべきだと考え、今の自分がいかなるものかを他人に伝えた。まるでそれらが自分ではないように。なにもない狭間になにかを忘れてきたかのように。男にとってそこは、唯の狭間ではなかった。すべてを満たす無に安堵を覚えていた。凪の水面に落とされた水滴、もとい大雨は、大きな波紋を広げ、自己を顕示する力を生んだのだ。
12月9日午後7時57分、男は気がついた。ここにはなんの変化もない。
12月9日午後7時57分、私は気がついた。ここにはなんの変化もない。
何も起きていなかった。安堵した。凪の水面は存在しなかったのだ。あわやヒトという環に取り込まれそうになった私は、なんの問題もなく生活を取り戻した。システマティックに組み込まれたひとは、再び運動を始め、するすると抜け落ちた狭間の快楽に気づくこともなく回り続けている。
男達は偽物だったと思うことにした。