文明は進み、あらゆる場所からインターネットに接続できるようになった。誰もがスマホを持ち歩いて、常に情報を受信したり発信したりできるようになった。そうして他人との連絡がとりやすくなって、SNSが普及して、人と人の距離が近くなって、比例して他人との垣根は低くなった。
人は他人を知り、他人の価値観を知り、それを受け入れたり否定したりしているうちに、世界は画一的なものへと変化していった。
今や個人の思想はひらけているべきものとなり、それができないと「社会性がない」と揶揄された。男女は平等に在らねばならず、人を嫌ってはならず、ものごとを批判してはならず、差別をしてはならない。一度そのしきたりを外れると非国民と揶揄され、罵られた。ときには職を失い、家族を失い、家を失った。
人々は互いの言動を監視し合うようになった。一部の国民はそんな時流に見切りをつけ、電波の及ばぬ僻地へと逃げていった。彼らは去り際、「こんなものは冷戦と同じだ」と言い残してみせたが、その言葉の意味を理解できる者はもうほとんど残っていなかった。
そこから10年の間に、国民のフラストレーションは最高潮に達していた。言葉狩り、思想狩りはその罰を苛烈にさせていった。世界は窮屈になった。
そしてあるとき、その思想から虐げられ家族を失った一人の男が、監視者への報復を行なった。
戦争は始まったのだ。