その拳は親の腹部に当たった。臀部にも当たった。後頭部に、向う脛に当たった。
盲目の子供は、世界の大きさを知らなかった。なぜなら動けばすぐ何かにぶつかるから。
幼い頃、目が見えていた時彼はクリスマスにゲームを買ってもらった。許された唯一の娯楽を彼は大いに楽しんだ。
腕を振り回しても、何にぶつかってもその世界では経験値を得られた。自由に走り回れるフィールドがあった。
狭い箱庭は急遽広い豪邸に変貌した。
美しく青き草原は、何処までも続いて見えた。
近所のスーパーより近くて美しい場所。手を伸ばせばいつでも届いた。
清らかな流れの川を見て、我が物のように感じた。
あれもこれも、自力では手に入らない物を揃えたくなった。
足をバタつかせて地面を蹴り
蹴ったつもりの地面がいやに柔らかい事に気付いた。まるで、そう、人肉に近い感触だった。
見るも無残な死骸の上でダンスを踊る!踊れば踊る程地面は硬くなる。
地面は時々呻くような声をあげた。
それは咆哮であり、嘶きであり、怒号であった。
そう、大人しくさせるには踏み締めなければならない。そうして広大な大地を何度も何度も足で痛めつけた。
ゴーグルを外してみると、足元でゾンビのような顔色をした人体がこちらを睨んでいた。
長い事踏み続けた為に柔らかさは感じられない。
初めて見た人体は何処か自分に似ていた。虚構の中でも人は年を取る。そのありきたりな老化を、ゾンビの顔に見出していた。
恐怖で足が竦む。冒険譚を築き上げようとしていた?とんでもない。プレイしていたのはホラーゲームだ。
正に実の親が勇者の首を締め上げる所だ。