近所の犬が朝っぱらから煩くて、小一時間鳴き続けて睡眠妨害。その対抗策として、昔のCDを大音量でかける事にした。取り出したのは二枚の自作CD。歌詞も全部元彼が印刷したものだ。几帳面な字がタイトルに踊っている。曲順の書かれた紙を裏返せば、「OPEN」の記載がある。
まさか、と思った。一枚だと思われたその紙、よく見ると開けるようになっていて、中にメッセージが書き込めるようになっている。大学時代、遠距離恋愛をしていた私達はこうやって音楽を共有する事で寂しさを紛らわせていた。恐る恐るOPENと書かれたその紙を開いた。
「誕生日おめでとう。遠距離恋愛で寂しい思いをさせているかな。ごめんね。大好きだよ」
見覚えのある達筆で。考えないようにしたけど涙が溢れてしまった。自作の歌詞カードは、水分に弱い。あの頃の思い出が簡単に滲んでしまう。私達は、彼の母親の死をきっかけに別れたのだ。元々自分に恋愛感情はない相手だった。その筈なのに、トラックの最後に収録された「今、会いに行きます」の挿入歌だとか、今では陳腐と切り捨ててしまいそうなラブソングが詰まっていて。