「帰らせなさいよ!」とヒステリックに怒鳴られているといつも頭の中に浮かんでしまう。デイサービスとかショートステイなんかだとまだ家に帰れるという救いがあるけど、家に帰らせることのできない施設で働いてると、結局ここはボケてしまった人たちが他人に迷惑をかけないように、事故を起こさないように、ある程度の健康を保たせながら、死ぬまで見守る牢屋なんだという結論にどうしてもなってしまう。
油断すると他人のものを盗んだり果ては他人のものに自分の名前を書いて自分のものだと言い張る老人とか、歩行が不安定で歩けないのに自分で歩こうとする老人とか、暴れながら便を撒き散らしたりとか、挙げればきりがないくらいに、すごい老人はいくらでもいる。
今まで人なんて殴ったことはなかったけど、働きはじめてから、「ここでこいつを思いっきりぶん殴れたら気持ちいいんだろうなぁ」という場面が何度もあった。
「私はキチガイじゃないし、ボケてないでしょ!!!!!」と怒鳴り続ける老人に、「あなたは間違いなくキチガイだし、その上ボケてるからタチが悪い」と喉まで出かけて「そうですね」と無表情で答え続けた。
この仕事をするなんてまだ考えてもなかった頃にテレビでスーパー介護士として取り上げられている人がいた。その人は徘徊している利用者の話を夜通し聞いてあげたりしていて、熱心だなぁとその時は感心していたけど、今考えると周りのスタッフは大変だったんじゃないかと思う。
素晴らしい介護士として取り上げられる人たちは大体が薬を使って寝かせたり落ち着かせることに反対の立場で、「その人の尊厳を守りましょう。その人の行動を制限してはいけない」と言うしそれは正しいことだと思うけど、絶対に無理だと思う。
過剰に前向きな素晴らしい人じゃない限り、誰も耐えられない。
介護の仕事に「治る」という判断基準がない以上、家に帰らせることのできない老人は人権を奪って牢屋に入れ続けるしかないんだろうなぁ。