4月、所属している部署に異動してきた人は「業務上配慮の必要な人」だった。
50代半ば、優しそうな顔立ちで、物腰の柔らかな人だった。ここではAさんとする。
遡ること3月。「業務上配慮の必要な」Aさんが来るということで、わたしの部署の業務分担が見直された。ただでさえ少人数なので、それぞれがめいっぱい仕事を抱えていた。様々な心理戦の結果、Aさんがやるべき仕事は3/2減らされ、その減らされた分の8割を、私が担当することになった。
更に、仕事に良く慣れた、優秀な先輩が異動することになった。
なんの代わりなんだろう、と思ったが、私はただ頷いた。
1番の繁忙期にこの仕打ちはひどいと思った。思ったが、口に出しても無駄なことだった。私に伝えられるのは、決定事項のみだからだ。
結果的に、Aさんは3日で来るのを辞めた。4日目は欠勤し、5日目は労働組合を連れて人事担当者の元にやってきて、会社に病院の診断書を提出した。彼は今、病気休暇を取っている。
思い出す。Aさんの3日目。慌ただしく仕事をしている私たちの中で、Aさんはただ1人、ぼんやりと座っていた。背筋をまっすぐにして、手を膝に置いて。茫然自失というような、そんな表情だった。
私の席からはそれがよく見えた。私とAさんは、通路を挟んで向かい合うような席にいるからだ。
私は一瞬声をかけようとしたけれど、仕事におわれ、すぐに忘れてしまった。気づいたらAさんは帰宅していた。
後から聞いた話だと、Aさんは、本来彼がするべき仕事を私が引き受けたことを、申し訳なく思っていたらしい。30も年が下の小娘が、目の前で忙しそうに自分のすべき仕事をしているのを、Aさんはどんな気持ちで見ていたのだろう。私は多分、Aさんが仕事に来れなくなる一因を作ったのだろう。
Aさんが来なくなって数週間がたつ。みんなで少しずつフォローし合いながら何とか仕事をまわしている。