今年30歳になる。
ちょっとした傷でも棘のようにいつまでもちくちくして、いつまでも悲しかった。
自分が傷ついたのではなくても、誰かが悔しい思いをしていたり、寒そうだったり、ひもじそうだったりするとすごくつらかった。
うちは、両親の躾が結構厳しい家庭だった。色々なルールにがんじがらめになって、不自由な思いをすることも多かった。
そのせいで、いらない傷もできたと思う。
しかし、当時はそれが少し誇らしくもあった。
子供ながらに矜持というものがあり、自分はダメな奴だが根本的には正しいのだとよくわからない理由で胸をはっていた。
こちらの言い分もあったのだけど、相手の言うことにも正当性があった。
そのときは、自分が嫌になったし、うまく意思の疎通ができなくて悔しかった。悲しかった。
けれど、一晩寝たらなんとも思わなくなっていた。
そういうことあったな、昨日。そういう感じだ。
となりのトトロで、メイちゃんがトトロを追いかけていって、森の中に入っていって
トトロの隠れ家みたいなところに転がり込むシーンがあったと思うのだけれど、
自分が今感じている感覚は、メイちゃんがぽっかり穴みたいにあいた空を眺めている感じに近い。
例えば、自分が何か膜のようなものに覆われていて、現実はのぞき穴から見ているような。
あるいは、現実から逃げてきて、半透明の無菌室のような場所で浮遊しているような。
そういう感じだ。意味不明だったらすまない。
ストレスで医者にかかったり、死んだりしている人もいるなかで、
この膜をいつのまにか獲得していた自分は幸福なのかもしれない。
しかし、子供の頃の自分の胸をふくらましてくれていたあの誇りは、もうない。
いつのまにか、すごく汚い自分になってしまったような気がする。
悲しい。
でも、明日になったら、この悲しみも、それを吐露したこの文章にも
「そういうことあったな、そういや」
ってなるだけなんだろう。