戸塚ヨットスクールはなかなか面白い題材だと思う。この場合、とにかく体罰、暴力絶対ダメ! という議論になりがちだが、それは戸塚の半面しか見ていない議論だからである。
なぜ半面かといえば、ようするに戸塚は鞭と飴の使い方がある意味上手く、かつて軍隊が一定の成果を挙げた手法を踏襲しているからだ。
この飴部分についても論じなければ、泣いて感謝する卒業生がいることの説明にならない。
アメ部分とはつまり、身体的危機を救ってやったり、クズでも見捨てず面倒みてやったり、能力や人格を認めてやったりなどで、
これにより「恩義」や「構ってもらえた嬉しさ」から反抗心が薄れ、「お前のために厳しくしているんだ」という言葉を受け入れやすくなるのである。
人は飴なしには変わらず、それまで飢えていればいるほど飴は甘くなるのだ。そして一度でも飴を受け取れば、これに返礼する義務を感じ始める。
これは互酬性に基づく「規範や礼儀の成立の瞬間」に、より原始的でダイレクトに触れているとも言える。
軍隊でよくあるパターンとしては、生意気な新兵を憎まれ役の先輩がしごき新兵の鼻っ柱を折る→新兵の心が折れかけると、いつも厳しい教官が助けてくれつつ、厳しさの必要性や目的の大事さを訴える→
成果を出すなどすると、新兵たちの価値を大げさなほど認めてやる、といったような手法だ。
最初のしごきや人格否定がきついほど、この「認められた感、仲間や目的に貢献してる感」は強烈に働く。特に認められた経験のない者にとっては効く。
はっきり言って洗脳とほぼ同じ手法であるが、それだけこの肉体的危機+落としてから持ち上げる方法は強烈な人格改造に役立つ。
実はこれ、女が暴力夫に依存しちゃうパターンと同じ。「お前のために厳しくしている」と「本気で愛しているから手が出る」は同じやり方。