それは私が21歳の大学生だった時のことです。
その頃の私は、男性とお付き合いしたこともないし、実家と大学を往復しているだけの、ぼーっとした学生でした。
さて、私の所属学部には、学生に人気のある男性の先生がいました。歳は当時40代だったと思います。
今でも覚えていますが、近くのホームセンターで購入したら思っていたより高かった、と皆に話していました。
好きなものを選んでください、と先生に言われ、皆がバラの花束に集まりました。
色んな色がありましたが、私は赤いバラを選び抜き取りました。そして、無意識で花の匂いをかぎました。自分の席に戻ろうとすると、先生と目が合いました。先生は私を見て「バラが似合うね」とおっしゃいました。
私は絶句しました。男性と付き合うどころか、手すら握ったこともないのに、当時人気の男性からそう言われるのは、あまりに衝撃的でした。そのバラの匂いも思い出せませんが、同級生が「私も似合う?」とからかい、ポーズを取っていたのを、とても恥ずかしい思いで見ていたのは覚えています。
また、同じ先生の講義でのことです。その日私は遅刻して教室に入り、空いている席に座りました。席に着くや否や、先生は私を指名しました。花を使った慣用句があるが、聞いたことはあるか?と聞かれました。さっき座ったばかりでぼんやりする頭では何も浮かんできませんでした。先生は、「立てば?…芍薬。座れば?…牡丹。歩く姿は?…」とまで言ったとき、ピーン!ときた私は「百合の花!」と答えました。先生は私が正解するとは思っていなかったようで「良く知っていましたね」、と大変驚いた様子でした。それを見て私は生意気に、バカにしないでよ、と思いました。しかし先生は「誰かに言われたことでもあるんですか」とおっしゃってきました。私はカーッと顔が熱くなり、慌てて否定しました。先生は「本当に言われていそうですね」とニヤっとされました。そのあと先生が、この慣用句は美しい女性を表現したものであることを説明しているときの、私のいたたまれなさと言ったら。
今の私ですか?彼氏のいない30歳です。