最寄り駅の駅前にあるデパートの屋上に、ちょっと高級な中華料理店がある。
店のメインのシェフは、以前「TVチャンピオン」の「中華四天王対決」とか言う回に登場し準優勝したことがあった。
勿論、全ての料理をこの人が作っている訳ではないだろう。
ちょっとお金があったので久しぶりにそこに一人でランチを食いに行った。その店に行くのは十数年ぶりだ。いやが上にも期待は高まった。
店に入ると「こちらへどうぞ」と言われて四人掛けのテーブル席に案内された。店員が椅子を引いた席に座ったのだが、その席からだと他のテーブルで昼から軽くビール等を飲んで騒いでいる他の客のグループが目に入ったのと、外の景色があまり見えなかったので、案内されたテーブルの中での他の席に移った。移った席からだと、騒いでいる人達は目に入らず、窓からはデパートの最上階から見下ろす昼下がりの郊外の穏やかな景色が広がり、私の心を癒した。
麻婆豆腐、白飯、スープ、漬け物(ザーサイ)、デザートの杏仁豆腐が並んだ。
「ご注文は以上で宜しいですか?」
と訊かれたので
「はい」
と答えて早速食べようとしたのだが、
しかし何か変だ。並んだ皿や椀のうち、幾つかは手の届かないような位置にある。並び方も不自然だ。
味は不味くはなかったが、値段を考えればそれほどでもなかった。
あれ?こんな程度だったか?
もっと安くて美味い麻婆豆腐は都心部へ行けば幾らでもあるはず。子供の頃の記憶が美化されていたのか、それとも単に味が落ちたのか?
そして、最初に並べられた皿の位置が不自然だった理由を食事中に気付いた。
麻婆豆腐ランチは、最初に案内された席の前に並べられていたのだ。客が同じテーブル内で席を移ったのにも関わらず、料理は最初に案内した席に座った人が食べやすいように並べられていたのである。
この店には二度と来ないと心に誓った。