ようよう深まる僕らの愛は、すこし無垢で、目を合わすのさえ恥ずかしくてままならない。
二人にとっては、これがファーストキス。
はじめては二度と訪れない特別なものだから、いつまでも忘れないためにここに記しておこうと思う。
桜の咲くうららかなある日、僕は彼女を家に呼んだ。
この時点ではキスをするつもりなど僕にも彼女にもなかったけれども、部屋に入り、二人きりでつれづれな時間を過ごしていると、無言の空間がなんともいえない雰囲気をかもしだして、彼女がはにかみ、僕もはにかみ、もうキスをすることが暗黙の了解のようになってしまった。
見つめ合うことさえできない僕らが(むろん手をつないだこともない)、いざキスをするとなるとどうしていいのだかわからない。
しばしの沈黙の後、うつむきながらふーっと深呼吸して顔を上げると、彼女はいかにも緊張して面映そうにしていた。
僕も男だ。僕がリードしなければ。部屋のとびらを静かに閉めて、ちょっと触れればこわれてしまいそうな体を思い切って引きよせ、乙女のはじめてを奪った。
ほんのりと冷たいくちびるが、僕の分厚いものをねっとりと吸いつける。
キスってきもちいいよって誰かが言っていたけれども、まさかこれほどだとは思わなかった。
やがてどちらからともなく舌が入り、無心で絡めながら、人間に生まれてよかった、父さん母さんありがとうと泣きたくなるほど感謝した。
生きるってすばらしい。
驚いたのは顔の近さ。
彼女のつややかな顔がどアップで映るのだ。
さすがにこのときばかりは目が合うし、彼女の眼球の中に自分の顔があるのまでわかる。
だんだん恥ずかしくなってきて目線を上にそらすと今度は髪の生え際が一本一本つまびらかに見える。
さらには肌の産毛、毛穴、そして可憐な鼻毛も一本...(よく女の鼻毛が出ているのを幻滅するとか言う人がいるが、僕はまったくそうは感じなかった。むしろ人間らしくていいな、かわいいなって思った。)
しばらくすると互いの息遣いが荒くなり、ちゅぱちゅぱと色っぽい音が部屋の中に響く。
きのうまでは触れ合ったことさえなかった僕らの関係が一気に昇華したのを、窓の外から聞こえる小鳥の合唱が祝ってくれているようだった。
半分ひらいていた目を二人はいつのまにか閉じ、なおも夢中で舌をからませつづける。
何分たっただろう。
疲れを感じて舌の動きが緩んできたとき、彼女の舌が妙に冷たいことに今更ながら気づいた。
冷え性に悩んでいるとは言っていたけれども、舌まで冷えているのだろうか。
そういえば、さっきはじめて唇を合わせたときにひんやりとしたのも、あの時は興奮していてあまり気にしなかったが、冷静になってみるとちょっとおかしい。
まさか。
はっとして目を見開いた。彼女の目も丸くなっていた。視線を徐々に下げてゆくと、荒れ気味の肌、開きすぎな毛穴、ぶっとい鼻毛、あれ、髭まで.....
唇をそっと離す。