ガラガラだった車内は、都心を抜けると逆に下り電車となり、いつしか満員になってしまった。
降りるのが大変そうだ不安に思いながら南場さんの自伝を読むこと20分。
目的の駅に到着し、混雑した車内を出口に向かって進む。
大きなカバンを持っていたので、すいません、すいませんと恐縮しきりで出口に向かうのだが、
一人のおっさんが立ちふさがった。
年の頃は60くらいか。白髪。青い半袖のワイシャツにグレーのズボン。昔ながらのクールビズ。
そのおっさんが微妙に避けたので、背後を追加する。と何やら足に違和感が。
どうやらそのおっさんが足を踏んできたようだ。目指して確認した。
やっぱり黒いウォーキングシューズで足を踏んでいる。
電車の揺れでよろめいたおっさんが踏んできたのかと思ったのだが、滑らかに駅に滑りこむ電車は揺れていない。
どうやら意図的に踏んできているらしいことが判明した。
しばらく静観していると、また踏んできた。明確にはっきりきっぱり意図的に。
若いころなら踏み返すなり小さな反抗をするところだったが、変なことに巻き込まれたくないと無視をした。
すると無視をされていることに憤慨しているのか、おっさんはまた足を踏んできた。
何が彼をそんなに掻き立てるのか。
ちょっと足を踏む人を間違えたら、大変なことになるのに。
老人や妊婦さんだったらどうするのか。怪我をさせてもいいという覚悟でやっているのだろうか。
怖いお兄さんだったらどうするのか。返り討ちを覚悟でやっているのだろうか。
そのまま電車を降りた。
チラリとおっさんを見る。
目が合った。
そのおっさんはなんとも言えぬ表情をしていた。
怒っているようでもあり、悲しいようでもあり、苦しんでいるようでもある。
どうかこのおっさんに幸福をと、僕の顔は慈しみのほほ笑みになっていた。
大きなカバンを持って(図らずも)満員電車に乗って迷惑をかけたのは事実であるが、
最低限のマナーを持って混雑した電車を降りたつもりだが、おっさんにとっては
不満だったのだろう。イヤホンをしていたから、こっちの声も聞こえなかったのかもしれない。
混雑した電車で不思議な葉山レイコ似の女性と出会った。 大きなカバンを持って電車に乗った。 ガラガラだった車内は、都心を抜けると逆に下り電車となり、いつしか満員になってしま...