2018-03-03

[] #51-3「ノットシューゴ」

≪ 前

実のところ、重役たちは監督降板を半ば予定していた。

これまでのシューゴさんの態度を顧みるに、今回も改善余地は見られないであろうことは想像に難くない。

監督降板をチラつかせたくらいで大人しくなるような人格でないことも分かっていた。

実質的に、今回は降板のための“分かりやすいキッカケ”を得るためにシューゴさんを呼び出していたのだ。

シューゴさん……」

「ふん、せえせえするぜ。上からアニメを碌に知りもしないくせに口を出され、PCクレーマーオタクからはつまらん粗探しばかりくる。その肩の荷がやっと下りた」

その言葉強がりからくるものではなかった。

重役たちが“そのつもり”だったように、シューゴさんも“そのつもり”だったのだろう。

日々、アニメのことを考え、アニメを作っていたシューゴさんにとって、それ以外のことはノイズだった。

それを気にすることを強要される位なら、いつでも引導を渡してくれて構わないつもりで臨んでいたのだ。

「フォンさん、よかったな。これからはオレとお偉いさん方の間で板ばさみにならなくて済むぜ」

「ワタクシは……」

「フォンさんは純粋シューゴさんが降板したことを残念だと思っているだけですよ」

「オレが降板するのは既に決まったことだ。若干ムカついて悪態はついちまったが、肩の荷が下りたってのも本音なんだ」

しかし、重役やシューゴさんたちがそれで良くても、父たちは納得できない。

するわけにはいかなかった。

なにせ『ヴァリオリ』におけるシュー監督という存在は、独楽でいうならば“軸”だ。

アニメがたくさんの人間の力によって作られているとはいえ、軸なしでコマを廻し続けることは困難だろう。

シューゴさん。俺たちが撤回する方法を何とか模索してみます。ですから、いつでも戻ってこられるよう準備だけはしておいてくれませんか」

父たちの説得に、シューゴさんはイエスともノーとも答えなかった。

監督を降ろされたことについて後悔はしていない。

だが未練がないといったら嘘になる。

ましてや、長年の仕事仲間に「戻ってきて欲しい」と直に言われ、それを無下にもできない。

自分たちでやれることをやりたいって言うのなら、勝手にすればいいんじゃないか? だが、成果が出るかどうか分からない、出たとして時期すら未確定のもののために、悠長に待つほどオレは我慢強くないぞ」

まりシューゴさんが次の契約を得るまでという、条件付きでのOKサインだ。

「よし、そうとなったら早速行動に移りましょう!」

「そうですね……あ、シューゴさん。監督を降ろされたことについて、ブログかに書かないでくださいよ」

物事において、波風が全く立たないなんてことは有り得ない。

だが、出来る限り穏当にいかないと大騒ぎになってしまう。

父たちがシューゴさんに釘を刺すのは必然だ。

だが、返ってきた言葉はあまりにも無常だった。

「それ、もう少し早く言って欲しかった」

屈託のない返事に、父たちは青ざめた。

思っている以上に、シューゴさんは刹那的に生きていたようだ。

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記事への反応 -
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    • あのさ、お前の書く話、すっげーつまんねえのわかるか? つまらねえ話はいい加減やめろよ。 そんなにやりてえなら 小説家になろうにでもやってろよ

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