2015-06-24

初恋は笹舟にのって

漏らしたうんことともに流れていった。

小学校の時に七夕まつりに参加した。

仲の良い母親同士が集まって、となり町に住む友人の家まで出かけていったんだ。

その中には初恋のあの娘もいた。

彼女はそんなぼくの恋心を知ってか知らずか、とても無邪気な様子で祭りを楽しんでいた。

夕暮れの縁日をめぐる中、そいつは突然襲ってきたんだ。

わたあめか?りんごあめか?それともお昼に食べた冷やし中華か?

目の前には憧れのあの娘がいるのだ。

流れていく笹舟を眺めながら、「うんちがしたい」の一言だけは口が裂けても言えなかった。

今の自分くらいのベテランになれば、腹痛の種類と波長で緊急度が判断できたであろう。

しかし当時はまだ毛も生えていないこどもだ。

それがどの類の便がもたらす便意かの判断をすることはできなかった。

幾度なく襲いかかる腹痛と便意。

その度に立ち止まっては括約筋を限界まで締め付けた。

友人の家まで行ければなんとかなる。

そう言い聞かせながらも、友人たちが縁日の奥へと進んでいくことに絶望を予感していた。

短くなる腹痛の周波数。遠のいていく友人たちの背中意識

わたしは自分の括約筋に限界があることを間もなく知ることとなった。

幸か不幸か。漏れ出たそれは形を伴うようなものではなかった。

最も緊急度とお漏らしリスクは高いながら個体を伴わない液便だったのだ。

抑えきれなかった一緩みを感じた後、腸に集まっていた血液が身体に戻っていくことを感じた。

この様子ならまだいけるかも知れない。

その後は友人グループと付かず離れずの距離を保ちつつ、ひと通り祭り会場を回るまで緊急を伴う便意に襲われることはなかった。

ミッションは最低限のダメージで切り抜けられたと思われていたのだ。

そんな帰り道、突然イタズラっぽい表情を浮かべながらで初恋のあの娘が近づいてきた。

「なんか、さっきから臭うけど、○○くん漏らしたりなんかしてないよね(笑)

しかし、その直後の表情から彼女が全てを察したことがわかった。

その一言で青ざめたぼくの顔と、近づくことでいっそう強くなった臭いが合わされば当然だろう。

何かをごまかすようにあの娘がぼくの元を離れていったのは、友人の家の玄関まで30mのところだった。

真っ先にトイレ直行したぼくはズボンをみて驚愕することになる。

ほんの一緩みと思われた液便は、尻からももにかけて激しくズボンの色を変えていた。

もちろんわかっていたのだ。

ももが湿ったような感覚が、夏の湿気と汗によるものではなかったことを。

その事実もっと早くに認めて、一人勝手にでも離脱してしまえばよかったのだ。

どこかで自分には特別な力があると信じたい年ごろだったのだ。

そこから記憶曖昧だが、おそらく一向にトイレから出てこない息子を心配した母親発見され、ろくに挨拶もせず家に帰ったと記憶している。

梅雨が始まると七夕を思い出すのだ。

この雨が続けば織姫彦星の逢引はまた一年持ち越されてしまうからだ。

その日の夜、母親から電話だと受話器を渡された。

受話器から初恋のあの娘の声が響いた。

「さっきは変なこと言ってごめんね。増田くんは漏らしたりしてないし、誰にも言ったりしないからね。」

そう言い放ち、こちらの返答も待たずして受話器の置かれる音が響いた。

もういいんだ。一番知られたくない人に知られているのだから

空よ。なぜあの日織姫彦星が会うことを許したのだ。祭りを中止させてくれなかったのだ。

頼むから今年の七夕もいやってほどの雨を降らしてくれ。人の気も知らずいちゃいちゃしてるあいつらを思うとどうにも許せん。

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