今から5年ほど前、近所に住んでた女子高生がいじめを苦に、マンションの屋上から飛び降りて自殺した。
聞いた話じゃ物を隠されたりするのは日常茶飯事で、トイレで全裸にされてそのまま締め出されたり、
便器に顔を突っ込まれたり、お金を取られたり、とかなりひどいものだったようだ。
この子の家は母親が早くに亡くなっていて、兄妹は無し。近所の工場で働く父親が男手一つで育ててた。
親一人娘一人の家だったから、この娘が母親代わりに家事をしたり、近所のスーパーのレジでバイトをしてた。
俺は家が近所だったこともあって、顔を合わせることもたびたびあったけど、
そんな娘さんが自殺した後、父親の落ち込み様はひどくてね。
娘さんの自殺からひと月ほどしてからこの父親も首をつって死んだんだ。
当時は、「娘さんが自殺したショックで亡くなったんだ」と、みんな思ってた。
だけど、最近の大津のいじめの事件をきっかけに、この父親と同じ工場で働いてた俺の友人から、
「今まで黙ってたんだけど」って話を聞いたんだけど、意外なことが分かった。
さっき書いたとおり、娘さんの自殺後、父親の落ち込み様はひどかった。
これに俺の友人や工場の上司は、このままじゃ娘さんが浮かばれないから、加害者や学校を訴えろって勧めたらしいのな。
あんな出来た娘さんが自殺して、親もここまで落ち込んでいるのに、加害者がのうのうと生きているのは納得いかないって。
工場の社長も弁護士を紹介するなど協力するって言ってたらしい。
けど父親は憔悴しきった様子で言ったんだそうだ。
娘がいじめられているにもかかわらず、それを自分に遺書で記すまで打ち明けられず、全く気付けなかった。
いつ遺書を書いたのか知らないが、そんなそぶりは全く見せていなかったようだ。
そしてもうひとつ、「自分は中学生の時に同級生をいじめで自殺に追い込んだことがある」って。
その父親の話じゃ、父親やその友人たちは中学生の時、同級生の子をトイレで裸にしたり、
誰かと無理やり喧嘩をさせるとかしてたけど、それはあくまで悪ふざけのつもりで、
まさか自殺するとは思ってなかったそうだ。
正直、自分が悪いとはその後も思うことはなかったそうだけど、娘さんが生まれ、育ってくるのを見て、
「自分もひどいことをしていたな」と罪悪感を覚えるようになっていってたらしい。
娘のいじめに全く気付くこともできないまま。
父親は、
「自分が昔いじめをしてたせいで娘が被害者になってしまったんじゃないか」
自分のせいで娘が死んだ、と俺の友人や上司に泣きながら打ち明けたそうだ。
友人たちは、「それは関係ない」っていったけど、父親は最後まで納得した様子はなく、
その翌日から出勤しなくなり、そしてひと月ほどたって首を吊ってしまった。
遺書はなかったそうだ。
5年たって初めて聞いた友人の話。
娘さんをいじめたやつもクズだし、この父親も救いようのないクズだな。
昔の加害者に謝りに行くこともせず、娘のせいにして自殺することで逃げ続けたクズ