幻覚と言っていいかどうかわからないが、小学校に入る前の頃には、自分は他人に笑われている、という感覚があった。私のことを笑っているのは、制服を着ている「お兄ちゃんお姉ちゃん」なので、中学生高校生だったと思う。中学生高校生自体が幻覚というわけではなく、笑われているという感覚が幻覚だったのではないかと今になって思っている。
笑われている、というのは具体的には、二人連れ三人連れの学生が少し離れたところから私の方を見て伏目がちに嘲笑する、という感じであった。特定の誰かに笑われている、という感じではなく、中学生高校生ぐらいの年頃の人間になぜか笑われる、という感覚であった。事実ではなく幻覚だったのだろう、と思うのは、中学生高校生ぐらいでは、自分の年下の子供たちに対して概して興味がないはずで、彼らにとって他人の私がいつも嘲笑されるということが考えづらいからである。
見知らぬ中学生高校生に笑われているという感覚は私をそれなりに苦しめていたようで、記憶にある限りで一度、母親に対してそのことを告げたことがある。そのときは、彼女は、笑われてなんかいないから心配するな、というような反応をしたと記憶している(当たり前である)。
他人に笑われているという感覚は統合失調症の症状の一つであり、幼児期に私は軽症のものを発症していたのかもしれない。笑われているという感覚はいつしか消えてしまい、特に今に至るまで、統合失調症として医者にかかることもなかった。ただ、あの頃の、何となく他人に笑われているという感覚は今も覚えていて、時折思い出して嫌な気分になる。