最近、よく子どもの頃の夢を見る。夢の中では大体いつも母親に怒られている。これは昨夜みた夢の話。確か5歳頃の話。
母の感情の導火線は短く、爆発すると長い。ティファールの湯沸かしの速さにサーモスの保温性までついてるようなもので、大体怒られている最後のほうには、もう何がきっかけで怒られていたのかわからないまま、ただ泣いて泣いて、「ごめんなさい」しか言えなくなっていた。もちろん、「何についてごめんなさいって謝ってるの?」と詰問されてさらに怒られるのだ。
その日も、多分何かしらの粗相をして怒られた。頬を叩かれて倒れたところを足蹴にされた。大きな声で怒鳴られた。多分令和の今なら警察に通報されて児相にマークされるレベルの大声だったと思うけどこれは平成一桁年代の話。
ひとしきり私を怒鳴りつけてから、母は買い物に出た。
この時、私は、「もしかしたらこの人は私のお母さんではなくて、本物の、私を叩いたり蹴ったりしないお母さんは、ころされてどこかに隠されているのかもしれない」と、唐突に思った。多分、テレビか何かで見た、両手両足を縛られて猿轡を巻かれた人のビジョンを思い浮かべたんだと思う。
そう思った私は、家の中を捜索し始めた。クローゼットの中、洗濯機の中、押し入れの中、ベランダに置いてあった物置の中。食卓の椅子を引っ張っていって、天袋の中も見た。
“私を叩いたり蹴ったりしないお母さん“の死体は、もちろんなかった。
途方に暮れていたところに、買い物に出かけた母が帰ってきた。おかえりなさい、と恐る恐る言ったけど、無視された。その日の夕食は焼きそばだったけど、私の分はなくて、その後も母とは一度も目線を合わせることもできず、震えながら布団に入った……ところで目が覚めた。最悪だ。