知らなかった。おじさんがすでに亡くなっていたなんて。
そのおじさんというのは、私の父の兄にあたる人だ。
父は4人の兄弟姉妹がいて、その一番上の兄が引きこもっていたのだ。
今年、病気で70歳を手前にして亡くなったとのこと。
知らせなくてもいいかと思って話さなかったんだと父は言った。葬式も済ませたという。
おじさんはずっと引きこもっていたので、私は会ったことがない。だから父からの話でしか聞いたことがない。
というか、私はそのおじさんのことを成人するまで知らなかった。成人して、初めて父親から存在を知らされた。
父の話によると、そのおじさんは口だけは一人前で、色々と屁理屈を述べて、働かないのだという。
何度か働いたことはあるのだが、長続きせず、最終的に引きこもってしまったらしい。
ただ、父の両親はずっと前に亡くなっていた。
だから兄弟で面倒を見ていたそうだ。生活保護は受けずに、兄弟みんなでお金を出し合っていたらしい。
そんな人がいるとは。私はショックだった。
それは引きこもりのおじさんがいることにではなく、ずっとおじさんの存在を私に隠していたことに対してだ。
昔、よく親戚同士で正月に一堂に集まっていた。それは子供ながらにとてもとても楽しい時間だった。
だがその中にそのおじさんはいなかった。しかも、一言も話題にのぼることすらなかった。
ずっと、ずっと、隠された存在。
私は怖かった。そのおじさんの存在をずっと隠されていたということが。
忌み嫌われているというか、他言してはならない存在のようで。
私もそうなるのではないかと思うと、怖くて怖くてならなかった。
私は今なんとか働いて生きている。でも、そんな立派な稼ぎはない。
いつ、おじさんみたいになるか分からないと思って働いている。
両親は、そんな父の兄のようにならないでほしい、そんな思いで私を育てていたらしい。
その言葉もなんだかショックで、心に残っている。
引きこもってはいけない。立派な人間にならないと、私は認められない存在なんだ。
私もおじさんみたいになっちゃうのかな。引きこもりの最期って、こんな感じで終わっちゃうのかな。
私は、今、生きている。曲がりなりにも、一人で生きていけている。
まずはおじさんのご冥福を祈ろう。そして、希望を持って、前に進もう。
読んでくださりありがとうございました。