2020-11-19

「すいとーよ」

もう何年も前の事になる。

仕事の都合である地方へと越す事になったときの話だ。

支社は小さくて、事務の子新卒で入った子らしくて小柄でかわいらしい子だった。

世代が俺と彼女しか居ない事もあって、それなりに仲良くなったんだ。

そんなある日の事、俺がいつも自販機お茶を買っているのを見て「水筒持ってくれば節約になりますよ」的なことを言ってきた。

面倒くさくてね、と俺が答えるとその子ちょっとだけ考える素振りを見せて「私、水筒なんですけど、よかったら○○さんの分も持ってきましょうか?」

そう提案してくれて、悪いかなと思ったけれど「大丈夫です、ひとつもふたつもそんなに変わらないですから」そういって笑ってくれた。

次の日からの子は俺に水筒を渡してくれて、「はい、すいとーよ」と、その子はいつも笑顔でそう言って俺に水筒を渡してくれた。

はいつも「ありがとう」と言って水筒を受け取り、休日には何度か一緒にご飯や買い物にも行ったりしていたんだ。

今でもよく覚えてる。

買い物して、ご飯食べて、帰りがちょうど夕暮れ時で、歩きながら別段たいした話もしないで歩いていた時の事を。

その日は別れるとき水筒、いつもありがとう」ってお礼を言ったんだ。

そうしたら「私だって、すいとーよ」その子は少しうつむき加減にそう言った。

彼女の言った事がよくわからなくて、聞き間違いかな?とも思って、その時はなあなあに返事した。

仕事ではわず半年本社に戻る事になって、その子とは疎遠になってしまった。

「すいとーよ」

その言葉に別の可能性があると知ったのは実は最近で、当時はそれほどネットが普及してなかったから知りもしなかった。

もしあの当時、俺がこの言葉意味ちゃん理解していたのなら、俺は今、ここに居なかったのかもしれない。

あのとき貰った水筒を見る度に、俺はそのことを思い出す。

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