どうかしたのと本人に聞いてみても「さぁ・・・なんででしょう」というような曖昧な返事しか返ってこないので困ってしまった。
私もサボテンも、あまり人付き合いが得意なタイプではないのだ。だからいつもは程々の距離感を保っている。
しかし相手が落ち込んでいるとなると話は別である。実は私はサボテンに助けられたことが何度もあるのだ。
例えば仕事でミスをした時。そのミスが些細なものであっても私は勝手に考え過ぎてしまって、そして深く落ち込んでしまう事がある。
そんな時、サボテンは私を慰めたりは決してしない。むしろ文句を言うのである。
「もっと肥料がほしい、湿気が多い気がする、日光浴がしたい、云々」
私はそれに従って忙しく働くのだが、世話をされて楽しそうなサボテンを見ているうちに仕事のミスなどは自然と忘れて気にならなくなるのだ。
そういうことがこれまでに何度もあった。
私はサボテンに顔を近づけてよく観察してみた。いつものようにツンツンと張ったトゲが針のように光っている。
・・・もしかして私と同じような事がサボテンにもあるのだろうか。何かを深く考え過ぎて落ち込んでいるのだろうか。
「ねえ、ちょっと触っていい?」
私の突然の問いにサボテンは驚いたようだった。そして少し怒ってもいるような気もした。無理もない。
触られるのを防ぐためのトゲを持っている生き物に対して「触っていい?」が禁句ということは誰にでも分かることである。
私はサボテンの返事を聞かずに、その身体のてっぺんにある唯一トゲの生えてない場所に人差し指をそっと乗せた。
この3年間で初めて触ったサボテンの感触は、他の植物と同じようなものだった。瑞々しくて少し弾力があって、そして生きている感触があった。
その間、私はサボテンの悩みとは何なのか考えてみたが、正直なところ見当もつかなかった。
しかしサボテンにはサボテンの悩みがあるに違いない。それだけは確かだろう。
私には私の悩みがあるのだから。