2020-09-20

サボテン喜怒哀楽

育てて3年になるサボテンがなんだか今日は元気がない。

どうかしたのと本人に聞いてみても「さぁ・・・なんででしょう」というような曖昧な返事しか返ってこないので困ってしまった。

私もサボテンも、あまり人付き合いが得意なタイプではないのだ。だからいつもは程々の距離感を保っている。

しか相手が落ち込んでいるとなると話は別である実は私はサボテンに助けられたことが何度もあるのだ。

例えば仕事ミスをした時。そのミス些細なものであっても私は勝手に考え過ぎてしまって、そして深く落ち込んでしまう事がある。

そんな時、サボテンは私を慰めたりは決してしない。むしろ文句を言うのである

もっと肥料がほしい、湿気が多い気がする、日光浴がしたい、云々」

私はそれに従って忙しく働くのだが、世話をされて楽しそうなサボテンを見ているうちに仕事ミスなどは自然と忘れて気にならなくなるのだ。

そういうことがこれまでに何度もあった。

  

私はサボテンに顔を近づけてよく観察してみた。いつものようにツンツンと張ったトゲが針のように光っている。

・・・もしかして私と同じような事がサボテンにもあるのだろうか。何かを深く考え過ぎて落ち込んでいるのだろうか。

  

「ねえ、ちょっと触っていい?」

私の突然の問いにサボテンは驚いたようだった。そして少し怒ってもいるような気もした。無理もない。

触られるのを防ぐためのトゲを持っている生き物に対して「触っていい?」が禁句ということは誰にでも分かることである

  

私はサボテンの返事を聞かずに、その身体てっぺんにある唯一トゲの生えてない場所人差し指をそっと乗せた。

この3年間で初めて触ったサボテン感触は、他の植物と同じようなものだった。瑞々しくて少し弾力があって、そして生きている感触があった。

  

私が触ってもサボテン一言も喋らなかった。

  

その間、私はサボテンの悩みとは何なのか考えてみたが、正直なところ見当もつかなかった。

しかサボテンにはサボテンの悩みがあるに違いない。それだけは確かだろう。

私には私の悩みがあるのだから

  

・・・しばらくして私は指を離そうとした。その瞬間、サボテンはその身体を突然ブルブルブルッと震わせた。

私はとてもびっくりしたが、その震えが喜怒哀楽のどれなのかは、少しだけ分かった気がした。

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