目の前のモニタ、辺りを囲う壁、外界を隔てる窓枠が。
恐ろしかったのだ
人間は恐ろしかったのだ。ジャングルの中でどこまでも続く木々のうねり、水溜りの淵、豪雨をもたらす雲の不定形。流れを変える川の濁流、無限に広がるような海の波。曲線に支配されたカオスの世界が。
そしてまた、人間自身が恐ろしかったのだ。身体の曲線、それに誘われ導かれ、半ば半強制的に繁殖を行ってしまう自分たち自身の本能、野生。曲線に支配されてしまう動物としての宿命が、ただただ恐ろしかったのだ。
そうしてそれを克服するために、何千年にも渡って身の回りの環境、すなわち住居、装飾品、道具に直線を持ち込み、磨き上げたのだ。野生的な曲線から、理性的な直線への脱却を目指して懸命に。成長と死を意味する山なりの曲線からの脱出、永遠の成長を意味する直線への渇望。それがきみの目の前にある直線の理由なのだ。