2020-06-19

あの皿うどんが食べたい

忘れられない長崎皿うどんがある。

時間揚げた細麺がパリパリでなかなか汁を吸わないから、食べている間ずっとパリパリ感を残している。

口に入りきらなくて麺の先が顔に当たり、ぽきぽきと音を立てるのが楽しい

あんにはざく切りの甘いキャベツをはじめ野菜たっぷり

おおきめに切ったちくわは魚の味が濃くて、いい味のアクセントになっている。

店の看板メニューであるジャンボ皿うどんを頼むと、薄いブルーの巨大な皿に家族五人でも食べきれないほどの量がのってやってきた。

ピンクかまぼこブルーの皿のコントラストが、実によく映えた。

日曜日の夜、家族みんなで皿うどんを食べに行くのが習慣になっていた。

その皿うどんの店は、父の親友がやっていた。

本当に美味しくて、小学生の頃は好物を聞かれれば必ず「皿うどん」と答えていたくらいだ。

父の親友は、穏やかでいつも笑っていて大勢友達に囲まれているような人だった。

親友が念願の店を出したというので、父は家族全員を連れて通っていたのだ。

気難しい父だが、親友といるときはいつも朗らかな笑顔を見せていた。

人見知りの母も、夫の親友とはよく話し、大きな口を開けて笑った。

その店は、味と店主の人柄のおかげでいつも賑わっていた。

店を出して数年後、父の親友は亡くなった。胃癌が発覚してから、あっという間だったという。

葬式から帰ってきた日の夜、父は号泣していた。母も泣いていた。

小学生だった私には、ほんのちょっと前まで元気だった人が亡くなるという現実が受け入れられなかった。

しばらくの間、父は落ち込んで、それから親友話題を口にしなくなった。

あれから数十年、父は好物だった皿うどんを食べない。

実家を離れて上京した私は、たまに長崎ちゃんぽんの店で皿うどんを注文しては、父の親友が作った皿うどんの味を思い出す。

あの皿うどん、美味しかったなあ。

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