孫にブラウザのブックマークを見られた。どうやら古いブックマークが残ってたようだ。
「増田?」
私はその響きに、何か懐かしいものを感じ、「どれ、ちょっとアクセスしてみようか」と孫に言った。
「ああ…」とため息がもれる。
果たしてそこに表示されたのは、私が半世紀以上も前に入り浸っていたサイトだった。
「これはね」と孫に、かつての故郷を紹介する。
「はてな匿名ダイアリーって言うんだよ。みんなが名前を隠して話をするんだ」
孫はいまいちピンと来ないような顔だ。
「昔は流行ってたんだよ。国会で議題になったこともあったんだ。おじいちゃんが20才くらいの時だったかな」と言うが、孫はやはり興味を持てないようで、「へー」とだけ言って、すぐに電脳空間での遊び場へと消えていった。
それにしても懐かしい。私は久しぶりに何か投稿でもしようかと思い、適当に投稿を眺める。
しかし、最新25件の投稿を見て、私はかつての故郷の現状を知る。
「これでは、ただの日記帳じゃないか…」と私は思わず呟いていた。
はてな匿名ダイアリーはただの日記帳じゃないハズだ。
どうでもいいことを一大事のように騒ぎ立てたり、ほんとうは興味のない政治の話題を煽ったりする場所なんだ。
そう思い、私は落胆した。
とはいえ、一瞬でも懐かしい思いをさせてくれたお礼として、その最新の日記にブクマをして、ブラウザを閉じた。
あれから一か月経ち、ふと増田のことが気になった。まだ彼は日記を書いているのだろうか。そう思い増田を開く。
トップページを見た瞬間、私は稲妻に打たれたかのように固まってしまった。
更新が途絶えていた。
その瞬間、私は理解した。
彼は満足したのだ。私のブクマによって。
彼はまぎれもなく増田だった。ブクマを求めて投稿を続ける増田だった。
投稿の内容など関係ないのだ。日記だろうと、政治について語っていようと、求めるものは一つ。ひたすらにブクマを求めることこそが、増田の増田たる所以だったのだ。
「こんなことに、今更気付くとは…」私はそう呟いた。