2016-03-14

望郷

「おじいちゃん、この増田ってブックマークなに?」

 孫にブラウザブックマークを見られた。どうやら古いブックマークが残ってたようだ。

増田?」

 私はその響きに、何か懐かしいものを感じ、「どれ、ちょっとアクセスしてみようか」と孫に言った。

「ああ…」とため息がもれる。

 果たしてそこに表示されたのは、私が半世紀以上も前に入り浸っていたサイトだった。

「これはね」と孫に、かつての故郷を紹介する。

はてな匿名ダイアリーって言うんだよ。みんなが名前を隠して話をするんだ」

 孫はいまいちピンと来ないような顔だ。

「昔は流行ってたんだよ。国会で議題になったこともあったんだ。おじいちゃんが20才くらいの時だったかな」と言うが、孫はやはり興味を持てないようで、「へー」とだけ言って、すぐに電脳空間での遊び場へと消えていった。

 それにしても懐かしい。私は久しぶりに何か投稿でもしようかと思い、適当投稿を眺める。

 しかし、最新25件の投稿を見て、私はかつての故郷の現状を知る。

 投稿は一日一件。内容は全て同一人物のものだろう日記

 トラックバックブクマも無い。

「これでは、ただの日記帳じゃないか…」と私は思わず呟いていた。

 はてな匿名ダイアリーはただの日記帳じゃないハズだ。

 どうでもいいことを一大事のように騒ぎ立てたり、ほんとうは興味のない政治話題を煽ったりする場所なんだ。

 そう思い、私は落胆した。

 とはいえ、一瞬でも懐かしい思いをさせてくれたお礼として、その最新の日記ブクマをして、ブラウザを閉じた。

 あれから一か月経ち、ふと増田のことが気になった。まだ彼は日記を書いているのだろうか。そう思い増田を開く。

 トップページを見た瞬間、私は稲妻に打たれたかのように固まってしまった。

 更新が途絶えていた。

 最後投稿は、私がブクマをした投稿だった。

 その瞬間、私は理解した。

 彼は満足したのだ。私のブクマによって。

 彼はまぎれもなく増田だった。ブクマを求めて投稿を続ける増田だった。

 投稿の内容など関係ないのだ。日記だろうと、政治について語っていようと、求めるものは一つ。ひたすらにブクマを求めることこそが、増田増田たる所以だったのだ。

「こんなことに、今更気付くとは…」私はそう呟いた。

 だから私たちは、ブクマを求めていたのだ。

 だから私たちは、ブクマをし続けていたのだ。

 あれから、今も私のブクマには、彼の日記が残っている。

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