過去の私は何をしていただろうか。
十年前、私はエル・プラットに降り立っていた。仕事上の出張と言い訳したが、目的はあの彼女に会うためだった。
アナベル。
空港から街までのタクシーは、当時カタロニア語を解さない自分には物珍しかった事を記憶している。
運転手はコロンブ、コロンとアジア系の私を見ながら笑顔で塔の人物を指差していた。すぐに理解できなかったが、それはコロンブスの像であろうとは想像がついた。
コロンブスは私の記憶ではジェノバの出身であり、リスボン時代があったことまでは理解していたが、彼が当時のカタロニアにどのような関わりがあったのか、その場では分からず不思議に思ったものだった。
タクシーは、それがまるで南欧そのものであるかのような眩しい太陽を受けながら、ホテルとへと私を連れて行った。
バルセロナは街は計画された美しい都市であった。そして今もその姿は変わらないだろう。
その街はオリンピックやアントニオ・ガウディなどで有名である事は既に知っていたが、そういった一画とは対照的に、市内の一部の通りでは、服飾を扱う中国からの貿易商で溢れており、その姿が往年の歴史、そして地中海の今も変わらぬ姿を教えてくれるには充分であった。
私は彼ら貿易商達の傍らを通り過ぎながら、アナベルに会えることが待ち遠して仕方がなかった。
携帯で彼女に到着を知らせると、すぐに「会いたかった」の返事が返ってきた。
(続)