川本くんが生まれた理由はついにわからなかったけど、死んだ理由はわかってる。皮肉なことに。何に対する皮肉なのかは、わからないけど。
孤独。漠然とした不安感。救いようのない、耐えようのないもやもやっとしたものが、川本くんの心にはあった。
なんでそんなこと僕がわかるのか、それとも決めつけることができるのかって?
そりゃ、生前彼の言葉を聞いていたからさ。川本くんは言っていた。「ちゃくせき」以外にも言っていたんだよ。驚くことに。
川本くんはだいたい黙っていて、だいたいクールだった。けど、しゃべるときには、驚くほど饒舌になった。
もちろん、誰に対してもってわけじゃない。いや、誰に対してもってわけじゃないって感じさせるだけで、誰に対してもそうだったのかもしれない。
川本くんの心のなかの断絶がそうさせたのかもしれない。ほら、饒舌なときと、クール、寡黙なとき。
ときどき、同じ人間をみているとは思えないときがあった。彼は彼で、整合性を保てていたんだろうか?
それについては、僕にはしるよしもないんだけど。だってほら、死人に口なし。
ここまで書いてきて思ったんだけどさ、生まれた理由はわからないっていったじゃないか。
けど、川本くんが死んだのは、まさにそれじゃないかって。「生まれた理由はない。死んだ理由はある。」
なってこった。
君はわかる?生まれた理由がないから、死んだんだ。生まれた理由はないのに、死んだ理由はあるんだ。
僕は正直、そこまでわかってこなかった。だって、それがわかるまでに26年かかった。
あの日僕が川で死のうとしたって、何も分からなかったことが、どぶ川に沈むコンビニ袋のようになっても何も分からなかったことが、
今分かる。不思議だね。
僕はそれがわかるまで大層な時間をかけたのだけど、川本くんは、もっと早くに気付いていたのかも知れない。
僕の通っていた中学は、それは地元でも有名なぐらいしつけの厳しい学校で、少しでも校則に違反しようものなら、体罰がまっていた。
あ、いやいや、体罰じゃない、しつけだった。先生は「どつく」って言ってたっけな。
あ、いやいや、体罰かもしれない。先生は、体罰はときに必要だ、どんどんやって下さいって言ってる親御さんもいる、って言ってたっけ。
とにかく、しつけのときには、それがどんな名前と名分かはさておき、とりあえず肉体的な痛みが伴ったんだ。
あ、そうそう、肉体的な痛みだけじゃなかった。あれは、精神的にも苦痛だったなぁ。
なんでこんな話をするかっていうと、一度川本くんは「後輩を殴った」っていう理由で、先生に「殴られ」てた。
でも僕が知っている話は、いや、確かに川本くんは殴ったんだけど、問題は彼だけじゃなかったんだな。
先生は知っていたか知らずか知らないけど、複数人の暴行を、全部川本くんがやったことにしてた。
あぁ、川本くんは停学だったさ。なんで停学だったかって言うと、学校側が「おおごと」とやらにしたくなかった、ということだったみたい。
話すようになったころには、うん。もうあれは川本くんだった。痛いほどに川本くんだったなぁ。
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