たかし。
数年前、夏休みの少し前あたり。台風直撃下の神社境内。雨が真横に降り注ぐ素敵な光景の前に、当然ながら参拝者の姿など影も形もない。
参拝者「(ガラッビュウゥゥゥゴオォォォヒイィィィィガラッ)ハァ…、ハァ…、すいません」
神主様「……こんにちは(おいおい嘘だろ台風直撃中だってのに人来たよ)」
参拝者「ハァー。ちょっと、そこ座って待ってて。(従う推定九歳児と推定三歳児)」
参拝者「御祈願を…、お願いしたいのですが」
神主様「どのような御祈願ですか?(この台風の中来たんだから余程切羽詰まった祈願なんだろうな)」
神主様「(特にないんかい、じゃあ何でわざわざ台風の日選んで来たよ)家内安全ですね。ご住所を」
参拝者「〇〇県〇〇市…」
神主様「(嘘だろ…かなり飛ばしても三時間くらいかかるぞ)はい。続いて皆様のお名前を」
参拝者「〇田〇夫、〇子、〇美、たかし!(突如顔を横に向け大音量で絶叫)」
参拝者「(母の叱責にしぶしぶ戻ってくる感じの推定三歳児を見て)まったく…あ。すみません」
神主様「…、(麻痺より回復)いえ。たかしさん、で宜しいですね?」
神主様「(さっきの音響爆弾に対する謝罪はないのかよ)どのような字を書かれますか?」
参拝者「えっと、たかしは…高い低いの高いに、たかしっ!(再度首を真横に向けて絶叫)」
参拝者「待ちなさいっ! たかしっ!」
神主様「…、(麻痺より回復)あとで受付いたしましょうか? 先にお子さんを…」
参拝者「ありがとうございます!すいません!(ダッシュ)」
背景といい表情といい、多分たかし目線だと物凄く恐ろしい光景。なんたって、荒れ狂う台風の中で憤怒の表情を浮かべた母親が自分めがけて全速力で突っ込んでくるんだから。