2012-11-17

安倍氏野田氏の議員定数削減提案に即座に賛成しなかったことの評価

どうやら世間(というかマスコミ界隈)では表題の件について、安倍氏が迫力不足だっただの優柔不断だのと、安倍氏についてネガティブな評価が多く見られ、ポジティブな評価が聞かれない。

しかし、この件については安倍氏の方に完全に理があり、野田氏の主張は民主主義に反する危険ものだと言わなければならない。

議員定数削減」の美名のみ注目されているが、削減の対象はもっぱら比例代表の削減であるから民主党の主張する「議員定数削減」は「小選挙区比率の増加」の主張である

そして、制度の性質上、小選挙区制は大政党に圧倒的に有利であるのに対し、比例代表制は大政党の有利が比較的小さい(これを「小政党に有利」と呼ぶ論者もいるが、比例代表制であっても大政党議席数の比率が得票数の比率に比べて大きくなるから、大政党に有利である)。民主党は「中小政党に配慮した比例の削減」を標榜しているが、その内容は複雑怪奇選挙人投票行動の前提となる予測可能性を大いに損なうものであるから、問題が極めて大きい。そのキメラ的な提案に対して当の中小政党は判断を保留するかまたは否定的である。当の中小政党が納得していない以上、選挙制度押し付けにほかならない。

したがって、民主党の「議員定数削減」の主張は、「議会の構成は大政党が決めるべきである」という主張であるさらに言えば小政党の排除が究極目標である

かかる主張は、2大政党一角に居られるであろう自民党にとっては有利である。また、2大政党一角自民と並び立つと考えている政党も、これに賛同するであろう(などという回りくどい書き方になったのは、私自身は民主党が2大政党の座から転落する可能性が高いと思っているためである)。

そうであれば安倍氏自民党党利党略のみを目指しているのであれば、野田氏の提案は渡りに船であって喜んでこれに賛成するはずである

にも関わらず、安倍氏はこれに賛成しなかった。その理由は、野田氏の上記提案への返答で明確に語られている。

「定数削減や選挙制度の改正を私と首相だけで決めていいはずがない。少数政党に極めて不利になるから、ちゃんと議論しようと言っている。」

その通りで、選挙制度という民主主義の根幹に関わる問題を大政党だけで決めるのは民主主義に対する攻撃である。歪んだ選挙制度は歪んだ議会構成を生むため、歪みを是正する機会が失われるからだ。野田氏は「われわれの提案は中小政党に配慮した比例の削減で、民主党にとってプラスでない。」などと反論したが、その提案内容が上記の通りの問題を抱えている以上、この反論に賛同することはできない。議員定数を削減したければ、小選挙区を「0増50減」にする方がマシである

安倍氏が迫力不足だったという人は総じて議員定数の削減には好意的であり、「大迫力で反論すべきだ」と評価している例を見ないから、要するに民主党議員定数削減案に賛成せよと言っている。

そのような人々には、民主党議員定数削減案を理解しているかと問いたい。少なくとも、あの提案は国民全体を巻き込む大規模かつ慎重な議論無しに採用してはならない。

そうであれば、「ちゃんと議論しよう」という安倍氏の主張は極めてまっとうであり、これをネガティブに評価するのは失当である

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