2012-01-04

私の全て ③別れ

その1ヵ月後、彼は出向期間を終え、自分会社に戻っていた。

私も別のグループに移ったため、仕事での関わりは少なくなっていた。

問題の男もプロジェクトを離れ、不穏な噂や彼へのメールもなくなっていた。


彼とは少し時間をおいた方がいいと思っていた私は、仕事以外で自分から彼に連絡しないようにしていたし、

彼がいそうな場所への出張は、極力避けるようにしていた。


そんな日が2ヶ月ほど続いたある日。

その日は、いつも通り遅くまで残業をしていた。

客先の担当者との調整がうまくいかず、帰れそうになかった。

そんな時突然、携帯が鳴った。彼だった。


急にどうしたんだろう?


気になったものの、後でかけなおせばいいや、と思って電話には出なかった。

結局終電まで仕事し、帰宅したのは午前1時だった。

さすがにこんな時間電話するのもなぁ…と思い、翌日電話することにして眠ってしまった。


翌日、何度電話をしても彼が出ることはなかった。

メールも、返ってこなかった。


それから数日して、知らない番号から何度も電話がかかってきた。

でも、登録外番号から電話は全て拒否していた。


から電話があった日から1週間ほど経った日。

私は同僚から、衝撃的な言葉を聞いた。


井上さん、亡くなったらしいよ。


一瞬、何を言っているのか分からなかった。

すぐに彼に電話をかけたけれど、電源が切れていた。


彼は既に出向期間を終え本社社員ではなかったため、詳しいことは分からなかった。

分かったのは、亡くなったのは6月25日だったこと。

自宅で首を吊っていたのを、職場の人が発見したこと。


彼が自ら命を絶ったのは、私に電話をかけてきた2日後だった。


この時の事は、今でもよく思い出せない。


彼が最後に私に言いたかった事は一体何だったんだろう。

もしも、私が彼の電話に出ていたら、

もしも、すぐにコールバックしていたら、

しかしたら彼が命を絶つことはなかったんじゃないか


毎日毎日、そんな事ばかり考え続けた。

時間連続して眠ることができなくなっていた。


彼が自ら命を絶った理由が分からなかった。


でも、全く心当たりがなかったわけでもない。

月100時間を超える残業が続いていた。

その上、私との間にあんな事があった。

いつもにこにこ笑っていた彼は、次第に笑わなくなっていき、

まり眠れないということを言うようになっていた。

もしかして、鬱かも。そう思った私は、病院に行くようにすすめていた。

最後に会った日も、病院行った?と聞いた。

彼は、土曜日仕事休みいから行けない、と言っていた。


もっと強く病院に行く事をすすめていればよかった。

無理矢理にでも連れて行けばよかった。


あの日見送った後姿が、最後になるなんて思ってもみなかった。

落ち着いたら、また会えると思っていた。

もう二度と会えなくなるのが分かっていたら、あんなふうに見送らなかった。


後悔しかなかった。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん