2024-03-31

コーラ色の迷宮

夜の町を締め付けるように冷たい風が吹いていた。ジョーンズとその相棒野村は、サイレンを鳴らしながら現場急行した。

同人エロ小説家井上龍之介遺体一人暮らしの住居で発見されたらしい」

ジョーンズがパトカーを走らせながら状況を説明する。

「ま、まさかエロ小説家事件ですか...」

若手の野村は戸惑いを隠せなかった。

二人は現場に到着すると、がらんとした部屋の中に散らばる同人誌の原稿に目を奪われた。ベッドの上には井上死体が横たわっていた。

遺体に大きな外傷はなさそうだ」

野村死体の周りを見渡す。ジョーンズはPCに目をやり、ディスプレイに表示された文章確認した。

 

『「僕のおしっこコーラ味だよ〜」変態の男は少女に言った。

おしっこのあわでシャンプーして?」』

 

「うげぇぇっ!?」野村は顔を覆い、猥雑な文章に身を震わせた。

しかジョーンズはむしろ落ち着いた様子で頷いた。

「なるほど...」

「えっ?なんですってジョーンズさん?」野村困惑した表情を見せる。

ベテラン刑事野村を見つめながら、こう切り出した。

いくら変態でも普通おしっこコーラ表現しない。おしっこコーラ色で泡立つ理由、分かるか?」

「はぁ?コーラ色ですって?それは...」

「多くの場合腎臓疾患の症状だろう。こういうアマチュア作家プロと違って、取材を徹底せずに自分経験だけで書くんだ」

ジョーンズの言葉に、野村がハッとした様子で目を見開いた。

「つまり、この記述は作者自身の体調、つまり腎臓障害の症状を表していた、ということですね」

「そういうことだ」ジョーンズはベッドの死体視線を移した。

多作に没頭するアマチュア作家は、しばしば自身健康を顧みず、症状にも気づかない。だから徐々に悪化し、気づかぬうちに重症化していった」

野村も頷き、重みのある事態に気付いた様子だった。

「結果としてこの猥雑な小説に、自らの腎疾患の症状が表れてしまった。まさか、自らの死を暗示するようなエロ作品になるとは...」

野村は無念そうに首を振った。

同人執筆に没頭し過ぎて健康を失い、気づけば死に至ってしまう…か。皮肉ものですね。芸術への探究心が、あまりに深く突き進みすぎてしまった、といったところでしょうか」

ベテランジョーンズも頷き、この不可解な事件真相に思いを馳せた。

アマチュア作家小説は、まさかの死の予感だったのである

 

その後の捜査で、紅麹のサプリの袋を作者の部屋から発見する。過剰な健康食品の摂取が、病状を加速させた可能性が高かった。

そして司法解剖で、死因は確かに腎疾患による多臓器不全だったことが判明するのだった。

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