なろう版(同一内容): https://ncode.syosetu.com/n0012dq/
火曜日のホームルーム。今日もケンジは学校にこなかった。僕があんなことを言ってしまったことで、ケンジをさらに追い詰めてしまったのかもしれない。ケンジは犯人ではない。それはわかっている。でも……。
昨日先生が『密告用紙』を集めたっきり、先生は何も言っていない。結果はどうなったのだろう。犯人は誰かわかったんだろうか。いや、あんなもので犯人がわかるわけがない。あんなもので、何もわかりっこない。そうだ。僕が彼の名前を書いたからって、それで何かが変わるわけがないんだ。
僕の心を読んだかのように、先生がそう言った。
「園田君、入って」
前の戸が開き、ケンジが教室に入って来た。神妙な面持ちだった。
「みなさんはまだ3年生なので、わからない人もいるかもしれませんが、悪いことをしたと告白するのは、とても勇気がいることです。誰でもできることではありませんし、立派で、素晴らしいことです。これから園田君に、何があったのかを話してもらいます。『自分には関係ない』というのではなく、これからの長い人生、みなさんの誰にでも、勇気を出して謝らなければならないことがあるでしょう。責めたり、馬鹿にしたりせずに、みんなでよく話を聞来ましょう」
「じゃあ園田君、できるわね」
ケンジが小さく頷いた。
先生に促されるまま、ユカ、アユミ、ヒロミの三人が立ち上がって、教壇の隣に立つケンジの隣に立った。何が行われるかは、明らかだった。
「高橋さん。僕は、先週の月曜日に高橋由佳さんの上履きを下駄箱から抜き取り、理科実験室のゴミ箱に隠しました。そして、自分でやったことなのに、誰か他の人がやったふりをして、自分でその上履きを見つけました。ごめんなさい。もうしません」
ケンジはそう言って頭を下げたあと、頭を上げて、不安げにユカに顔を向けた。
「高橋さん。園田君は悪いことをしましたが、きちんと自分がやったことを認めて、反省して、謝りました。高橋さん、許してあげられますか?」
ユカは無表情のまま、小さな声で「いいよ」と呟いた。
「高橋さんは上履きを隠されて辛かったのに、園田君を許してくれました。人を許すのは難しいことですが、素晴らしいことです。じゃあ高橋さん、席について」
先生がそう言い終わると、ユカは静かに自分の席に歩いて行った。
「広瀬さん。僕は、先週の火曜日に、広瀬あゆみさんの上履きを下駄箱から抜き取り、廊下の窓の外に隠しました。そして、自分でやったことなのに、誰か他の人がやったふりをして、自分でその上履きを見つけました。ごめんなさい。もうしません」
「いいよ」
次はヒロミだ。
「遠藤さん。僕は、先週の水曜日に、遠藤弘美さんの上履きを下駄箱から抜き取り、廊下の角の水槽の中に隠しました。そして、自分でやったことなのに、誰か他の人がやったふりをして、自分でその上履きを見つけました。ごめんなさい。もうしません」
「いいよ」
ヒロミはことも無げだった。
「園田君は、勇気を出して自分がやったことを告白して、三人にきちんと謝ってくれました。間違いは誰にでもあります。でも、間違いを認めて謝るのは、誰にでもできることではありません。園田君、ありがとう。そして、高橋さん、広瀬さん、そして遠藤さんの三人も、園田君の話をきちんと聞いて、許してくれてありがとう。人を許すのも誰にでもできることではありません。みなさんも、間違いを犯したり、悪いことをしたりして、だれかを傷つけたり、また誰かに傷つけられたりすることが、これからたくさんあると思います。そういうときは、高橋さん、広瀬さん、遠藤さん、そして園田君のように、間違いを認め、きちんと謝り、そして、誰かが謝ろうとしているときは、きちんとその話を聞いて、できれば許してあげてください」
やっぱり、そうだったんだ。そうだ。僕は自分が犯人にされるのが怖くて、ケンジに疑いを押し付けたんじゃない。ケンジと話していて、ケンジがやったんだとわかったから、だからそう書いたんだ。これで良かったんだ。
先生が続けた。
ケンジが頷く。
「それをみんなの前で話してくれますか?」
「クラスのみなさん、僕は、高橋さんと広瀬さんと遠藤さんの上履きを隠して、それを自分で見つけてヒーローになったつもりで楽しんでいました。豊島さんの上履きがなくなって、それを山崎君が見つけたとき、山崎君がみんなに褒められて、豊島さんに喜んでもらっていたのが羨ましくて、自分もああなりたいと思って、やってしまいました。みなさんを騙して、不安にさせて、それを今まで黙っていて、本当にごめんなさい」
先生がそう促すと、クラスのみんなが口々に「いいよ」、「いいよ」と言い始める。お決まりのプロトコルだ。
これでよかったんだ。これで全部終わる。そう思った矢先、目の前の背中が立ち上がった。
アヤネが言った。
『………弘』
恐怖で頭がいっぱいになった。
「犯人は、」
「僕じゃない!」
恐怖が口から押し出したその自分自身の言葉を聞いたとき、僕の体は椅子から立ち上がっていた。
「はぁ? なにそれ。誰もお前の話なんかしてねえだろ」
目の前が真っ暗になった。
小説家になろうにも掲載しています。 https://ncode.syosetu.com/n0012dq/ ケンジ 「遠藤さんの上履きがなくなりました」 水曜日のホームルームで先生が言った。 「じゃあみんな伏せて」 ...
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ええやん
ありがとうございます。今後ともよろしくおねがいします。
前話:anond:20180809173821 第一話:anond:20160131184041 なろう版(同一内容):https://ncode.syosetu.com/n0012dq/ ケンジ 「みなさんを騙して、不安にさせて、それを今まで黙っていて、本当にごめん...
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http://anond.hatelabo.jp/20160131184041 の続きです。当初2話完結のつもりでしたが、完結しませんでした。 タカヒロ 「上履き隠しなんてさ、何が楽しいんだろうな」 金曜日の学校帰り、いつ...
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前話: http://anond.hatelabo.jp/20161109170519 タカヒロ アヤネの上履きが隠されたのが、先々週の金曜日のこと。それから週明けの月曜日、火曜日、水曜日に立て続けに他の女子の上履きが隠...
前話:http://anond.hatelabo.jp/20161211080009 第1話:http://anond.hatelabo.jp/20160131184041 ケンジ 「あらケンジ、今日は起きられたのね」 月曜日の朝、俺は4日ぶりに普段通りの時間に起き出した。...
(オリジナルは、2016年11月7日に「エリカ」というタイトルで投稿したものです。すでに数度にわたって細部を変更しており、今後も、物語を完成させる過程で、細部を変更す...