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2024-11-22

父のパン

父が亡くなって3年が経つ。

ときおりふと思い出すのは、父の最後の言葉だ。

いや、意識もうろうとしていて言葉になっていなかったから、ベッドの上で両手を動かしているだけのジェスチャーだ。

父の表情から何を言おうとしているのかを私はしばしみていた。

直感で頭によぎったことがあった。「それってねじパンのこと?」と聞いてみた。

父が両手の動きを止めてうなずいた。

ねじパンがたべたいのね」

もうあと数日もしくは今夜かもしれないという容態の父なので、当然食べられるわけがなかったが、「わかった。買ってくるね」と答えた。

コンビニでそういうのがあるのは、ファミマだったかローソンだったかと考えながら、結局近くのスーパーで買ってきた。

病室に戻ると父は亡くなっていた。

「どうしてパンのことだってわかったの?」あとから叔母さんに聞かれたけれど、直感しかいいようがなく、自分でもなんでそう思ったのかわからなかった。

飲食店を営んでいた父が隠居したのは15年も前だ。

もともと歯が悪かった父は仕事をやめてからますます悪くなった。

そんな父が好んでクリームパンねじパンなどの菓子パンを食べていたのをよく思い出した。

先日、たまたま両親の経営していた店(居抜きはすでに他の店に代わっている)の前を通りかかって、ふと隣のパン屋が何も変わらない姿でずーっと店を営んでいることに気が付いた。そういえば、うちの店の隣って、昔っからパン屋だったんだよな。

父は生前、隣のパン屋にずっとお世話になっていたんだろう。仕込みなど立ち仕事で忙しい職業柄、総菜パン菓子パン日常食だったに違いない。

家に帰ると、ビールちょっとしたつまみしか口にしていなかった父。

父の職場での食事をそういえば、今まであまり想像したことがなかったことに思い当たった。

今わの際に両手をねじって、ねじパンが食べたい、という父の思いは、きっと隣のパン屋だったんだ。

試しにgooglemapの口コミを覗いてみたら、メチャメチャ地元民に愛されているパン屋だった。

隣のパン屋のパンを買ってきてあげればよかった。

そういうことに、3年も経って思い当たるものなんだな。

 
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