2024-06-12

友人に論破されたかもしれない

先日の土曜、友人と飲んだ。

友人はフリーランスとして働いており、稼ぎは少ないものの好きな時間に寝て起きられることを自慢していた。

だが稼ぎは俺の方が多い。

久しぶりの飲みだったので酒が進み、酔っぱらうと「金持ちになりてぇなぁ」と俺は何となく呟いた。

友人は目つきを鋭くして「は?」と言った。

いや金持ちになりたいとか普通の事でしょ。それとも違うの?

そう尋ねると友人は目を逸らして「別に」と言った。それからジョッキに残った三分の一程のビールをすべて飲み干すと小さくゲップし「で、どうすんだ?」と俺の目を見て聞いてくる。

なにが?と尋ねると友人はテーブルの隅にあるスイッチを押しながら「金持ちになったら何がしたいんだ?」と言う。すぐには答えられず、店員さんが来ると俺たちは空のジョッキを差し出し同じものを注文した。

俺は酔っていた。逆に金持ちになったらできないことはないんじゃないかと俺は考えなしに答えた。

友人は笑った。アホかと。やりたいことがあるなら分かるが、やりたいこともないのに金持ちになりたいなんて言うのは単に金持ちに憧れてるだけで意味がないことなのだと力説してきた。

心の底からやりたいことのためにお金を使うのが幸せなことであってそのためのお金と言うのは案外お金持ちにならなくてもなんとかなるもんだよと友人は言い俺は曖昧に頷いた。じゃあ今幸せなのか?と友人に尋ねると「ああ」と彼は自信満々に頷いた。

友人は今でも独り身で、いい歳で狭いアパートに住んでいた。俺も独り身だが、結婚する確率は俺の方が確実に高いだろう。

俺には友人の態度が欺瞞に見えた。それは単なる嫉妬ではないのか。

酔っていたのでその疑問をそのままぶつけた。友人は笑い、違うと断言した。俺は今のままで十分幸せだよというその目には光が宿っていないように見えた。

友人が何か言おうとした時注文したビールが運ばれてきた。俺たちは数度目の乾杯をして泡たっぷりビールを喉に流し、笑い、それでも頭の片隅では自分金持ちになったら何がしたいのかを考え続けていた。

しかしそれは結局思い浮かばなかった。思い浮かぶ願望は、手が届かないほど遠いものではなかったのだ。

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