2023-03-29

キリンチャレンジカップ

「…監督監督!!」

「ーー俺は檸檬堂がいい」


ーーーーーー


 キックオフから数分経った頃、俺は一心不乱に筆を走らせた。


 "キリンチャレンジカップなんて"


 そうだ。キリンチャレンジカップなんて、調整不足の国々を招くイロモノ大会に過ぎなかったのだ。メッシが来てもロナウドが来ても、みんながみんな時差ボケに苦しみながらサッカーをして、勝利国にはチューハイ1年分を譲渡されるのがキリンチャレンジカップなのだ


 "氷結より檸檬堂の方がいいかな"


 手記にそう書き留めた時、強烈なヘディングシュートが侍ブルーゴールネットを揺らした。


 「戦う!最後まで戦うよ!!」


 気づけば声を張り上げていた。バルベルデレアルマドリード?そんなことはどうだっていい。俺はただ、キリンチャレンジカップの景品が檸檬堂なのか氷結レモンなのかが激しく気になっていた。


 最近檸檬堂の勢いには目を見張るものがある。レモン一点張りの潔さ、缶デザインも抜かりない。「9%はちょっと…」という方も安心できるアルコール7%の選択肢をもたせたところがニクい。


 …そんなことを考えていたとき、目の前で左SB伊藤が鋭いインナーラップを魅せた。三笘が極上のパスをつけると、伊藤は前を向いてドリブルウルグアイに即刈り取られた瞬間、俺は卒倒した。


 「…監督監督!!」


 深い眠りから目覚めた時、試合はすでに終わっていた。起きた瞬間、選手に向けて発していたはずだが、意識が混濁していたのだろう。何を話したのか覚えていない。


 救護班に担架で運ばれている最中心配そうに見つめるキリン会長と目があった。今このとき動かなければいつ動く。俺はバッと身を起こし、全霊を込めて語りかけた。


 「会長、俺は檸檬堂でお願いします」


 …そのときの、まるでガンジーのような会長の表情を、俺は生涯忘れることができないだろう。

 会長は、息を深く吐いたのち、俺に対して諭すように言った。


 「檸檬堂は、コカ・コーラや…」


 ---キリンチャレンジカップは、また来年も開催される。

 意識がまた朦朧としてきた。俺は最後の力を振り絞り、震える手でこう書き留めて眠りについた。


"コカ・コーラチャレンジカップ"


と。

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