フロムの『自由からの逃走』では重荷としての自由からの逃避のメカニズムとして、「権威主義」「破壊性」「機械的画一性」の3つが説明されている。が、この「機械的画一性」という訳は原文とはニュアンスがだいぶ異なる。誤訳と言ってしまってもいい。
原文だと “Automaton Conformity” である。
“automaton” の方は、節中の「自動機械」「自動人形」と訳されているものと同じである。“automaton” という単語は、「自動機械」から転じて、「自分の頭で考えずに、機械的に行動する人」という意味でも使われ、この本ではまさにこのニュアンスで用いられている。
“conformity” の方は、con- form であるから、単語自体の中心的な意味としては「形を同じくする」ということである。この節では、真の自分の思考や感情や意思を持たずに、他者のそれら、あるいは他者からの期待に順応・適合してしまうことを指している。この節の本文中で “conform” という単語は何回か出てくるが、そこでは「歩調を合わせる」「順応する」と適切に訳されている。
つまり、”automation conformity” という言葉は、「自動人形のように、自分の考えを持たずに他者の考えに順応・適合するさま」を表している。端的に言うなら「自動人形的順応性」といったところだ。
一つは「画一性」と言ってしまうと、こうしたプロセスではなく、その結果を表してしまうことである。ここでは逃避のメカニズム = 逃避がどのような形で行われるかの話をしているのであるから、プロセスないしはベクトルとしての「順応」の方が正しい。
もう一つは「画一性」と言うと、皆が同じような思考・感情・意思を持つ様子を想起させることである。”automation conformity” は、集団の様子を指しているのではなく、あくまで個人におけるプロセスのことを指している。また、順応する対象も人によってバラバラであり、結果としても必ずしも集団が画一的になるわけではない。