2022-03-05

自由からの逃走』の「機械的画一性」という訳について

フロムの『自由からの逃走』では重荷としての自由からの逃避のメカニズムとして、「権威主義」「破壊性」「機械的画一性」の3つが説明されている。が、この「機械的画一性」という訳は原文とはニュアンスがだいぶ異なる。誤訳と言ってしまってもいい。

原文だと “Automaton Conformity” である

“automaton” の方は、節中の「自動機械」「自動人形」と訳されているものと同じである。“automaton” という単語は、「自動機械から転じて、「自分の頭で考えずに、機械的に行動する人」という意味でも使われ、この本ではまさにこのニュアンスで用いられている。

“conformity” の方は、con- form であるから単語自体の中心的な意味としては「形を同じくする」ということである。この節では、真の自分思考感情意思を持たずに、他者のそれら、あるいは他者からの期待に順応・適合してしまうことを指している。この節の本文中で “conform” という単語は何回か出てくるが、そこでは「歩調を合わせる」「順応する」と適切に訳されている。

より直接的な脅威にかりたてられて、他人の期待に歩調を合わせているのにすぎない。 (p.218)

同一性喪失からまれてくる恐怖を克服するために、かれは順応することを強いられ、(p.225)

まり、”automation conformity” という言葉は、「自動人形のように、自分の考えを持たずに他者の考えに順応・適合するさま」を表している。端的に言うなら「自動人形的順応性」といったところだ。

機械的画一性」という訳には二つの問題がある。

一つは「画一性」と言ってしまうと、こうしたプロセスではなく、その結果を表してしまうことである。ここでは逃避のメカニズム = 逃避がどのような形で行われるかの話をしているのであるからプロセスないしはベクトルとしての「順応」の方が正しい。

もう一つは「画一性」と言うと、皆が同じような思考感情意思を持つ様子を想起させることである。”automation conformity” は、集団の様子を指しているのではなく、あくま個人におけるプロセスのことを指している。また、順応する対象も人によってバラバラであり、結果としても必ずしも集団画一的になるわけではない。

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