性欲と性愛は全く違う心のあり方だった。
生物的なただの欲求は、他者との性的な接触を必ずしも目的とはしないらしい。
誰とも恋愛はしないけど、この欲があるなら誰とでも寝られるだろう、と思っていた。
実際のところ、難しくてびっくりだ。
なんとも思っていない相手に欲情なんてちっともしない、他人に対して劣情を抱くということもない。
裸で触れ合っているのに、何もかもどうでもいいんだ。
目の前の人から与えられる快感を拾おうとしても、どこかで頭は冴えたままだ。
やり場のない快感に身悶えながら、壊れることはなかった。ずっと耐えていた。快楽に耐えていた。溺れられなかった。
嫌だったわけじゃないんだ、ただずっとつまらない。
気持ちよかったけど、ずっと虚しかった。この人に心は許すことはないのだし、
この人とわかり合うつもりはないのだし、私はこの人に求められたものを返せない。
なら、求めてもらえることもこの先ないだろう、と心の隅が口を開けて大きく暗く息をしていた。
抱かれながら何も心の充足にはなっていないことをただ確かめた。
私はこの人を愛さない。性的にも、恋的にも、それが誰についてもこうなのだということを、
ひたすらに思い知っていた。
かける言葉も、話したいことも、知りたいことも、教えたいことも、何もなかった。
この行為に一切の愛はなくて、当然のようにそれは虚しかった。私はそれを想像できなかった。
愛することも、恋することも、私は美しい情熱だと思う。
だから憧れてはいる。手には入らないし、手に入れたいわけではないけど。
欲しかったわけじゃない。失くしたわけじゃない。捨てたわけじゃない。
私にとって鳥の羽のような、ネコの瞳のような、イルカの尾のような感情だ。
おやすみなさい