昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがおりました
おじいさんは炭鉱でボタを運ぶトロッコの運転士をしており、他の人より1秒以上も短いタイムを叩き出すその腕前は皆に称賛されていました
おばあさんは同じ炭鉱で作業時間を知らせる鐘を鳴らしたり、お昼の食事を作る仕事をかれこれ30年以上も続けていて、皆から慕われています
ある日のこと、いつものようにトロッコを操り華麗にズリを運び出していたおじいさんですが、午前中からなにかいつもと違う、かすかな違和感を感じていました
しかしノルマの厳しい炭鉱の仕事ですから、ズリは絶えず吐き出されており、念入りに調査する時間などありません
おじいさんは今日の分のノルマを終えた後で点検することにして、今日何度目ともなるボタ山への線路をいつものように駆け抜けておりました
減速の必要な第4、第5コーナーのS字シケインを前にして、普段ならもっと引き付けてからブレーキを踏みこむおじいさんでしたが、
今日はなんとも言えぬ違和感からなのか、いつもより早いタイミングでブレーキを踏み込んだところ、バキン!と音を立ててブレーキパッドが破損してしまいました
おじいさんは咄嗟に体重移動を駆使して、なんとかアウトインアウトで駆け抜けることに成功しました
しかしトロッコの勢いはとどまるところを知りません。おじいさんはおばあさんに緊急通信のコールを行いました
「おばあさんや、助けておくれ。トロッコのブレーキが壊れてしまったようなんじゃ」
連絡を受けたおばあさんはすぐに炭坑内へアラートを鳴らし、トロッコの路線上から退避するよう呼びかけました
しかし現場主任からの連絡で、間の悪いことにちょうど線路を補修中のチームがおり、そこにはアラートが届かないというのです
このままいけばおじいさんの乗ったトロッコがその5人を轢いてしまいます
その前に線路上に石を置くことでトロッコを脱線させることができますが、その場合おじいさんは猛スピードで外に投げ出されて死んでしまうでしょう
くじ引きの結果石を置く係に選ばれたおばあさんは、ぶるぶると震える手でこぶし大の石を掴みあげると、ゆっくりと、その線路のレールの上へ・・・・