いつものスーパーの、お総菜コーナー。ポテトサラダのパックに右手を伸ばそうとしたその時だった。
振り向くと、見知らぬ老人がじっとこちらを睨んでいた。
「ママ?」
左手に感じる我が子の手のひらに力が入ったのがわかる。視線が怖くて、ポテトサラダを取らずに慌ててお総菜コーナーを後にした。
帰って冷蔵庫に買ったものを詰め込む。ふと、野菜室の隅に鎮座したじゃがいもが目に止まった。
じゃがいもの皮に切り込みを入れて蒸し器でふかして皮を丁寧に取り除く。
「アチッ!」
「ママ! お手伝いする!」
「じゃあ、じゃがいもを潰すのお願いしようかな?」
「うん!」
剥いたじゃがいもは食感が残るように軽く潰してあら熱を取る。
きゅうりは薄切りにして塩揉み。じゃがいもが冷めたらきゅうりの水気を切ってじゃがいもに加えてマヨネーズと、少しだけウスターソースと粗挽きの胡椒を加えて完成。
「おいしそう! ママすごい!」
ポテトサラダを作るなんて何年ぶりだろう。時間をとられ過ぎた。後は簡単にお肉を焼いて、味噌汁はワカメと玉ねぎでいいか。
夫ははにかんで食卓についた。手伝ったんだ!と自慢する子どもに笑顔を見せる。
「そうだね~。でも大変だったでしょ?」
まあね、と適当にごまかして山盛りのポテトサラダに箸を伸ばした。
「そういえば、父さんが昔作ってくれた味に似てるなあ……」
「えっ、亡くなったお義父さん?」
「死んだの、俺が学生の時だし知らないよな」
「どんな人だったの?」
「頑固だし、ほとんど台所になんて立ったことなかったよ。でも、一回だけ母さんの誕生日にね」
「そうなんだ……」
食後、夫が見せてくれたアルバムには、今日と同じ山盛りのポテトサラダの前でぎこちない笑顔を見せる義父の姿があった。
「この人…」
それは紛れもなく、私に今日声をかけてくれた、あの奇妙な老人だったのだ。