友人の結婚式のために京都に行った時のことだ。京都大丸地下フロアのトイレを出てすぐのところに、チーズ屋があった。俺は普段チーズなんか全く食わないんだけど、なぜかその時は吸い込まれるように店に近寄って、日本酒に合うチーズありますかと聞いていた。後日、親父からいい日本酒を貰える予定があったのだ。店員は、それがねお客さん、チーズは日本酒に…………と答えた。ああ、合わないのか。とちょっと残念に思ったら、合うんですよ!とキラキラした瞳で答えた。お婆ちゃんの店員だった。俺は直感的に、この店員は信用できると思った。オタクの目をしていたからだ。
お婆ちゃん店員はいろいろなチーズを試食させてくれた。どれもこれも濃厚で複雑な味わいがあり、それだけで完成された食べ物だった。しかし、中でも俺に衝撃を与えたチーズがあった。コンテチーズである。美味しいナッツのようなコクと程よい塩気、ミルクの芳醇でクリーミーな味わいがあり、マジで無限に食べられるほど美味かった。人生、このチーズ知っているのと知らないのでは、天国と地獄ほどの差がある。もはや義務教育で教えて良いレベルで、QOLに大きな影響を与える。俺はすぐにコンテを買って、意気揚々と大丸を出た。
あれから数年、俺は東京や地元近郊のデパ地下、専門店を中心にコンテチーズを買っているのだが、あのとき食べたほどのコクやクリーミさ、芳醇さが全然ない。京都大丸でないと駄目なのか?そんなことあるのか?天下の東京で駄目なのに?チーズを買いに京都まで……行くべきなんだろうか。まだあのお婆ちゃん店員はいるだろうか