作者:未詳
とても暑い、夏の日のことでした。
みぃちゃんがお小遣いを握りしめて、近くの駄菓子屋さんにお菓子を買いに行くところです。
「車に気をつけていってくるのよ。お菓子は家で食べようね。」
お母さんがみいちゃんに麦わら帽子をポンと被せながら言いました。
「喉が乾いたらこれを飲みなさい。」
みぃちゃんの大好きなキティーちゃんの水筒を、お母さんが首からかけてくれました。
「ポカリにしてくれた?」
「ううん、お茶が入ってるよ。でも帰って来たらカルピスがあるからね。」
みぃちゃんは少し残念に思いましたが、顔をつとあげるとお母さんに大きな声で言いました。
「いって来ます!」
駄菓子屋さんはみぃちゃんの家から直ぐですが、途中小さな川があり、みぃちゃんは赤い橋を渡らなければいけません。
みぃちゃんはいつものように橋のたもとに座り込み、じぃっと目を凝らして何かいないか川を覗き込みます。
そのときです。
キラッ
橋からほんの少し離れた川の真ん中に、何か光るものが動くのが見えました。
カワセミです!
とても不思議なことに、小さな、そして少し淀んでほとんど魚など居ない川に、綺麗な緑のカワセミがいるのです。
もちろんみぃちゃんには、それが何の鳥かなんて分かりません。
青や緑の羽が光に透けて、カワセミが飛ぶたびにキラキラと光ります。
わぁ、綺麗。
みぃちゃんはうっとりと魅入られたようにカワセミを見ています。
当たり一面にセミの声が響き、時折遠くから車のクラクションが聞こえました。
3分でしょうか、いいえもっと長い時間、みいちゃんはカワセミを眺めていたのかもしれません。
綺麗なカワセミを唯うっとりと眺めていたはずのみぃちゃんですが、何故だか次第にみぃちゃんの心のもっと奥の、みぞおちの辺りから、ムクムクと怒り、遣る瀬無さ、焦燥感、苛立ち、憎悪、嫌悪...様々な負の感情が沸き上がってきます。
ここがジクジクする。
お腹と胸の間辺りに手を置いて見ながら、みぃちゃんは思いました。
もう行こう、早くお菓子を買ってそして帰らなきゃ。お母さんが待ってる。
ジクジクの原因が分からないながらも、みぃちゃんはここにいてはいけないと感じ、その場を離れることにしました。
でも最後にもう一回、あの綺麗な鳥を見たい。
みぃちゃんはお別れを言うつもりで、もう一度カワセミを探そうと、頭を上げて川の方に目を向けました。
音もなく、みぃちゃんの顔の目の前に飛んできて、そしてそこにぽっかりと浮かんでいるのです。
「お前なんか生まれてこなきゃよかったのにね」