「うっ...どうやらおれはもうだめみたいだ。みんな、後は頼んだ...」
「ちょっと待ってください!」
「なんだ...おれはもう...」
「まだ引継ぎが終わっていませんよ」
「引継ぎ?」
「後任の方に対して残すべきドキュメントはどこにあるんですか?」
「ドキュメント」
「あなたがここまでどれだけ進捗したのか、それを管理しているガントチャートなりバーンダウンチャートなりはどこにあるのかと聞いているんです」
「ガントチャート」
「ないのであればPCを渡すので、その中にあるエクセルで作ってください。私のLet's Noteをお貸しします」
「お、おれはMac派なのに」
「Macだとエクセルとの相性が良くないんです。表計算からワイヤーフレーム作成、進捗管理まですべて行えるエクセルが使えないなんてMacは信用なりません。」
「あの、これなにをかけば」
「始まりの村を出発してから魔王を倒すまで、どういったスケジュールでいくつもりだったのか、もう後付けでいいのでスケジュールを引いてください。お客様とやり取りするためにドキュメントは絶対に必要です。ドキュメントがないと魔王討伐どころかソフトウェア開発も出来ませんよ。こんなの常識です。」
「えっと、この装備品一覧っていうシートは何をかけば」
「そこではあなたが今持っている装備を全て記して頂きます。ちゃんとIDをふってくださいね。」
「ID」
「IDをつける際にはお客様とのコミュニケーションで誤解が生じないようにあえてA-xxx-xxみたいにつけます。確かに番号にするとまるでわかりませんが、リモートコミュニケーションにおいて、例えばマサムネと言われた時にそれが武器なのか防具なのかわからないので、装備品定義書を用意してそれを確認しながらやり取りしたほうがいいんですよ。あえてコミュニケーションコストをあげることで証拠づくりをするんです。小規模なプロジェクトならわかりやすい文字列でもいいかもしれませんが、大規模プロジェクトになるとそうはいかないので、今のうちに意味不明なIDをつけられるようにしておきましょう。あ、ちゃんとIDと名称の対応表は作っておいてくださいね。あと、この資料は紙に出力するので罫線などは勿論しっかり整えてください。」
「...」
「あ、勇者がおなくなりに」