2014-12-04

ティッシュ

 自習室に行って適当な席に座った。隣ではすでに女の子勉強していた。見覚えのある顔だった。現代文を教えた子だ。昨日何となく同じ部活のTのクラスへ行ったらTは現代文勉強していた。その隣で一緒に勉強していたあの子だ。自分で言うのもおかしいけど僕は現代文が出来る方だ。だからTとその子現代文を教えた。教科書の設問を少し説明しただけだけど。

 あの子だと分かったからといって何かあるわけでもなく、僕は普通に勉強をはじめた。しばらくして、壁にかかっている時計を見て次は物理やろうかなとか考え始めたとき、隣のあの子が鼻をすすっていることに気が付いた。僕も鼻の調子が悪かったのでその時は箱ティッシュを持っていた。僕はティッシュを分けた方がいいんじゃないかと思った。でも、相手があまり知らない女の子だということに気づいた。不審に思われたらどうしようと思った。急に恥ずかしくなった。僕が悩んでいるとあの子は席を立って自習室を出た。机はそのままだからトイレに行ったのだろう。僕は少しほっとした。そして思いっきり鼻をかんだ。

 しばらくしてあの子が戻ってきた。僕はまた悩んだ。あの子は戻ってくるとすぐ机に突っ伏して、仮眠を取ろうとしはじめた。顔を下に向けたからか鼻をすする頻度が増えた。僕は話しかけようにも話しかけられない、と思った。僕が勉強しているふりをしながらそわそわしていると、あの子は本当に寝たらしく、鼻をすする音が聞こえなくなった。僕はとりあえず時計を見た。予定が入っていたので、自習室をでるまであと1時間ほどだった。話しかけづらいからといってティッシュを渡さないというのも薄情な気がした。箱の中にこんなにティッシュが残っているのに。僕は帰るときにティッシュを置いていけばいいのではないかと思った。あの子はこのまま寝ているだろうから帰る直前に置いていけばリスクなくティッシュを渡せると思った。こういう置き土産ってなんだか少しかっこいい気がした。今考えればリスクのない行為のどこがかっこいいのかと思うけど。

 それからはしばらくは普通に勉強した。しかし、30分くらいしてあの子が起きた。しばらくするとまた鼻をすすりながらシャーペンを走らせ始めた。起きてしまった。僕にだけはとても不都合な状況になった。少し迷ったけれど、僕は考えるのをやめてとりあえずあの子の肩を人差し指で軽くたたいた。あの子が振り向いた。どうしよう。どうしようもなかった。僕は箱ティッシュを手に取って、「使う?」と小声で尋ねた。すると、小声で、ポケットティッシュを持っている、そしてここで鼻をかむと迷惑から部屋の外でしているという旨を伝えてくれた。細かくなんて言っていたかはもう覚えていない。

 あの子は持っていた。ちゃんと持っていたのだ。それにうるさくしないようにちゃんと外にでて用を足していたのだ。その時僕がほっとして別の用を足してるのだろうとか考えていたのがバカみたいだ。周りに気をつかって外に出て鼻をかんでいたあの子に比べて、平気の平左で自習室の中で鼻をブーブーかんでいた僕はなんてバカなんだろう。

 「あっ、えっと、そう、」と僕がふにゃりふにゃりと答えると、「ありがと」と言ってあの子はすぐ勉強に戻った。お礼を言われるようなことはしてないのに。僕は帰りたくなった。こんなに醜態さらしたあとに集中して勉強できる気がしなかった。今すぐ帰りたかったけどすぐ帰ると不審に思われそうだから10分ほど勉強するふりをして自習室を出た。箱ティッシュは自分ロッカーしまった。しばらくなくなりそうにない。

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