率直に言えば、結構面白かった。ひき込まれて一気に読んでしまった。
私はドイツについてほとんど無知で、現代ドイツでは「ヒトラー」「ナチス」がタブー視されている、くらいしか知らない。なので、本書のユーモアについても半分も解せていないかもしれないが、それでも結構面白かった。
この本(日本語訳版)は、オビやら前書きや後書きで「ヒトラーを称賛するものではない」と強調されている。現代ドイツでは、「過去の悲劇を繰り返さないために」という文脈でしか、ヒトラーを語ることはできないようだ。だが本文では、徹底してヒトラーの一人称視点で物語が展開していくので、そのような言い訳がましい言文が殊更強調されるというものでもなく、エンターテインメントとしてすっきりあっさり読めてしまう。
本書をどのように捉えるかは、ことに日本では様々な意見があると思う。コメディとして読むもよし、教訓を受けるもよし、批判するもよし。
私はとりあえず態度を保留することにした。ただ、現代に現れたヒトラーがドイツ社会に賛否ありながらも受け容れられていく様子と、本書が賛否両論ありつつドイツでベストセラーとなっていく過程がある種の相似形となっているように感じた。これは、敗戦後にタブーとなったヒトラーを、目を背け続けるのではなく、新しく捉えなおすことのできる時代が、ようやく訪れた、いわば戦後ドイツ社会の一つの転機とも呼べるのではないだろうか。
そして翻ってこの日本はどうだろうか、と否応なしに考えさせられたりもする。
ただ、上下巻8時間くらいで読み切ってしまったので、3400円は少々高いよなぁとも思う。ドイツ語版も英語版も1冊なのにさ。