2013-12-24

精神的自涜

 私は心のうちに形のない肉棒を欲した。扱けばなにもかも忘れられる肉棒を。眠りに落ちるように想像現実となる世界を。生温かい泥沼に沈んでいく果てのない“抱擁”を。一方で現実の陰茎はまるで幻想の有機さとは程遠く、ただ排泄器官の一つとして働く以外断線され電子回路のように上手く繋がらなかった。不思議にも器官も私自身も全く自涜に走ろうとは思われなかった。我われは我われに何処までもついてくる影に全部身を委ねても構わなかったが影とは永遠に触れ合うこと無く、けれども数学界の微妙な誤差程度の拒絶を保って離れずに私を構成していた。謂わば私の求めているものとはこの隔たりを蕩かす運命であり、宇宙の手ほどきであった。

 世界が私を拒絶するたびに私は選択を迫られた。それは間違いなく献身自殺傲慢な己惚れ以外になかった。私は常々正直な人間であろうとした。教育する側の言い分を信じこんだ。不良を笑った。私の綺羅びやかな将来のための穢れ無き投資であった。しかし徐々に徐々に正義はその輝きを失っていった。まるで自然世界うつろいであった。

 跳ねられて死んだ猫の死体はいつまでも道路にあった。私が道路を通る度に猫は痩せ衰えていった。枯れ葉は猫を優しく包み込み、猫は博物館にいる小さな恐竜の如きに変身していくのだった。そうして私は自分の死後に幽かな希望を期待して毎日自転車を漕ぎながらその小さな崇高な生の残り香を愉しむようになったある日、それは何処へか消えていた。車両が毒々しい粉塵をまき散らして横を通った。鬱蒼とした雑木林の中、転生し蘇った力強き“生”を、確かに私は垣間見たのだ。……

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