http://www.moae.jp/comic/complexage/0/1
彼女を突き動かすのは、視覚的・関係的に男性の所有物となり、そのアピールを反復することへの欲望だ。
「ダンナ 早く帰ってくるって言うし」と世話女房をことさらに強調すること、デートや外食の機会にゴスロリ衣装を着こむこと。
「女のたしなみ」という冗談は、決して口からでまかせなのではない。彼女は「女」であることを人一倍意識しているからこそ、
そうした「たしなみ」ひとつひとつの身振りに価値を与えることができる。
そして彼女にとっての「女」というのは、男に従属したものとして見られることを条件としている。
お姫様であることを求め続ける姿勢は、最初と最後でちっとも変わっていない。
自分でお姫様を演出することができなくなれば、投げやりな男の適当なおだてから、
お姫様であることの言質をもらいつつ、そこに救いを見出すしか手立てはない。
「さわちゃんはオレのお姫様だからね」「ゴスロリのさわちゃん大好きだよ」というまるでやる気のない愛想に大して反応を見せなかったのは、
だから、演出の神通力を失った途端に、「オレのお姫様」という言葉が、失った自分を補うものとして急に尊いものに聞こえてくる。
でも、男にとってこの言葉は、たとえ本心はそうでなくとも、とりあえずそう言っておけば妻を自分に尽くさせることのできる魔法の言葉だ。
実のところ、この事情は初デートの時から何も変わっていなかったのだ。「と とにかく よく似合ってるよ」という取り繕われたおべっか。
彼女はお姫様であること以外に異性に対して何も要求することはない。視覚的に所有される望みが絶たれれば、
むしろ彼女の方から視覚への望みを切り捨てる。「涙に枯れた両の眼を 清浄なる炎に 焼べる」。