結婚することになった。
双方結婚願望が無く諸事情により子供も持てないので結婚する気は無かったはずだった。
それなのに不思議な物で、タイミングと言うか運命と言うか気づけば籍を入れる事になっていた。
付き合いだしてもう10年をゆうに超えていたから(更に言えば出会ったその日からほぼ同棲生活スタートだったから)今更新鮮さも燃えるような恋心も無い。
周りに言えば皆一様におめでとう、良かったね、と言ってくれるが、当の本人は、はぁそうなのか、おめでたいのか、とさも他人事のように考えていた。
結納も、挙式も、あるいは小さな食事会すらも行わず、ただ紙切れ一枚提出してお終いの入籍。
指輪もいらないや、と思っていたのだけれど彼に勧められて昨日おそろいの指輪を買った。
シンプルで華奢できらきら光るきれいな指輪を見たら、急に泣きそうになった。
そうか、私結婚するのか、と今更実感したのかもしれない。
私は決して出来た人間では無い。
性格も難ありでルックスもお世辞にも美人とは言えずもう若さも無い。
どうして私だったのだろう、私で良かったのか、と言う気持ちがずっと心の奥底に存在していた。
結婚が決まった時、一度だけそれを彼に聞いてみたけれど、さぁ、なんでだろうね、と言ったまま彼は笑って話は終わってしまった。
今日仕事から帰宅したら彼は留守で、代わりに机の上に走り書きのようなメモがあった。
「初々しい生活とか自分たちの子供とかそういうものを全部捨てて君と一緒に生きる事を選んだ。だから何も不安になる事は無いよ」
指輪を見た時にぐっとこらえた涙が再びぶわっと出てしまってその紙切れを握りしめて泣いた。
とにかくわんわん泣いた。
何もない、からっぽだと思っていた私を見つけてくれて、これからの人生ずっと隣にいると言ってくれた彼が本当に宝物のように思えた。
おじいちゃん、おばあちゃんになる時まで一緒にいたいと思う。
願わくば、彼を看取るのは私であれば良いと思う。