あらすじからしてシェイクスピアの『リチャード三世』からいろいろ拝借してきたもので、タイトルもシェイクスピアを読んだことある人は手に取ってくれるかもしれんとつけられたものだろう。著者が好きなだけかもしれんが。
設定や大枠はリチャード三世から来ているものの、ストーリー自体はリチャード三世そのものではないし、実際のイギリス王室史やら、リチャード三世善人説やらを取り入れつつ、(わたしの思う)ラノベらしくさっぱり目に仕上がっていて大変によろしい。
しかしやっぱりキャラクターの作り方は、古典に学ぶのが一番であるなあと思う。この手の人間のイヤラシさが満載の宮中陰謀もの、特にリチャード三世が下敷きにあることが読者にも了解されていれば、登場人物の動機の根の深さを思わせてくれるので、これは大変に良い発見だった。
ちなみに著者は、シェイクスピアの知名度にたかるラノベ作家は自分で最初で最後かもしれない、とあとがきで書いていたが、それで思い出したのが、その昔、ガガガから出た樺山三英『ハムレット・シンドローム』という本。まああれは久生十蘭にハイナー・ミュラーを混ぜて衒学趣味をふりかけた上に(わたしが思う)ラノベらしさの微塵もなく作り上げられたものだったのだけれど。