あれは私がまだ大学生の頃。夏休みも序盤の7月、今まで一度も殆ど話をしたこともないような同期の女子から電話がかかってきて、図書館で夏休みの課題を一緒に仕上げようと誘いを受けた。
彼女は絶世の美女ではないが、地下アイドルにはなれるくらいの人だった。
私は狼狽えたが、とりあえずその申し出を受けることにした。
幸いなことにその課題は簡単なもので、昼間のうちに私も彼女も問題なく片付いてしまった。
夏の日が傾いてきてので何となく一杯やろうということになって、日高屋に行った。
唐揚げとかキムチとか餃子を肴に生ビールや日本酒を飲みながら日が沈むのを眺めていたら、彼女は段々と私に身をもたせかけて来た。そしてそのうち私の太ももに指で何か字を書き始めた。「スキ」と書いているようだ。
二人とも酔いが回って来たので割り勘で料金を払って店を出た。すると彼女は店を出た所で立ち止まり、「手をつないで!」「手をつないでくれないならここから動かない!」と言い出した。
仕方なく手をつないで駅に向かってゆくと、今度は「ねえ、次はどこに行くの?ホテル?でもそんな勇気ないんでしょウフフフ」と言い出した。
この状態で仮にホテルに行ったら、後日「酒を飲まされてレイプされた」と訴えられるに違いない、と感じた私は、彼女を駅のホームまで送り出して別れた。
初デートじゃなくて初ハニートラップに引っかからなかった話だった